寂しいなんて、
言わせないから



授業にて返されたプリント。

点数は予想通り芳しくはなく、私はその結果に溜め息しか出ない。
そのせいかそのプリントを机の中にも鞄の中にも入れてやることはできなくて。
何となく気が向いたので、それで折り紙を折ることにした。

折り紙としてみると結構な大きさのような気もするが、まあどこかに飾るわけでも、あげるわけでもないから構わないだろう。

形は勿論正方形ではないために、まずはその形にすることから始まる。
端を合わせて、三角に折っていくのだ。

四角に形を整えると、いつから見ていたのだろう。
田島がキラキラした目でその作業を見ていた。

彼はクラスメイトだったが、私の席に近いわけじゃない。
何だと思って思考を巡らせるが、答えはすぐに見つかった。
私の斜め後ろは三橋だ。
多分彼に近づく途中、この作業に興味を持ったのだろう。

しかし外野は気にしない。
このプリントを処分する前の有効活用の方が先である。

手元で、自分で言うのもアレだが、器用に折っていく。
田島は飽きないのか、相変わらずその作業を眺めていた。

すると、何を見ているか気になったのだろう。
三橋も後ろから、そっと覗き込んできた。

ちなみに、それも気にしない。

折り紙を折るのが随分久しかったため何度かやり直したが、余り経たないうちにそれはできた。

ぴんと立った二つの耳。
小さく出た尻尾。

ウサギである。

「おお!器用だ!」

できたそのウサギへ、見学していた二人のサービス精神のつもりで赤い目をいれてやる。

自分が作ったものとはいえ、目まで入れると何だか妙な愛嬌が出るものだ。
どうせ最後にはゴミ箱へという運命しか待っていないのに。

「なー田中、オレのプリントやるから、もう一匹作らねぇ?」

だがそう考えた横から、田島が声を掛けてきた。
迷惑、という意味を込めて彼のほうを見たが、そこには三橋も居る。
……断りづらい。

「……いや」

断るには変わりないのだが。
田島が食い下がってきたらどうやってかわそうかと考えた。
泉にうまくバトンタッチできるだろうか。
彼は何だかんだいって二人をうまくセーブしているから、大丈夫だろう。

そう考えていたのだが、予想外にも口を開いたのは三橋だった。

「オ、オオ、」

言葉がうまく出ないようだ。
クラスメイトにこれで、部活などではやっていけているのだろうか。
少し疑問に思った。

「……三橋も欲しいの?」

「う、うん!」

三橋の言いたそうなことを先回りしてやると、彼は嬉しそうに頷いた。
何だか小動物のようで可愛らしい。

「じゃあこれあげる。どうせ捨てようとしてたし。あ、中は見ないでね」

出来上がったウサギをひょいと三橋の手のひらへ乗せる。
けれど彼は動かなかった。
私も田島も、それを不思議そうに眺める。

何度か視線をそらしたりウサギを軽く弄ったりしていたのだが、ようやく頭の中で言いたいことが纏まったらしい。
口を開いた。

「う、うさぎ、は、さみしいと、死んじゃうんだ、よ」

私は、いけないと思いつつ口元のにやけが抑えきれなかった。

何だろう、この可愛い生き物。
私とは別の次元で生きている気がする。

「それ、デマだよ?」

確かこの前、テレビでそう言っていた。
私もそれまでそれが本当だと思っていたから、良い機会になったのは覚えている。

「でもオ、オレは、」

視線がウサギへ。

「さみしい、の、いや、だから」

視線が何となく田島へいった。
するといつも一緒に居る彼も発言に驚いているようだ。

「……三橋が」

「ご、ごめ、」

「三橋がそーいうなら、つくろっかな」

三橋の手からプリントを勝手に取る。
けれど彼は何も言わなかった。
それどころか楽しそうに見える。

「あー!じゃあオレもオレも!」

田島がここぞとばかりに声を上げたが、私は待て、とお預けしてみた。

「私の手は、二本しかありません。順番順番」

そう言いながら、二匹目を折る手は止めない。

むくれた田島に笑いながら三橋を見ると、彼は嬉しそうに手のひらのウサギを見て。
……いなかった。


視線は、私から外れない。


何だか気恥ずかしくてそらしてしまったが、まあこれもいいかな、とか思ってしまう辺り、重症である。




fin...


恋の始まりがやってくる
20070924
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