暗い道。

勿論夜になればどんな道だって暗くなるし、そんなこと分かりきっていることだ。
けれどどんなに分かっていても昼間と全く違う、重々しい雰囲気を感じさせる。
そしてそれは人を怖がらせることに長けていた。

私と三橋は今、その道を歩いているのである。



か え り み ち



「こ、こわく……ない、の?」

「っていうかね三橋君、怖いならついてくるなっての!」

オドオドきょろきょろしながら、私の後ろについてくるのは三橋。
彼は野球の練習帰りらしく大きなバックを持っている。
ちなみに私は用事があって学校付近を通っただけなので私服。

本来西浦高校に制服は無いのだが、中学のものがまだ着られるのでそのままだ。
そのうち変えようとは考えてはいるが、当分先だと思う。

「で、でも、一人で帰るのは、危ないと思う」

「や、私の家すぐそこだからね。すぐそこ」

強めに言うだけで、三橋君はしゅんと頭を下げた。
それにほんの少し苛々して、けれど胸の奥にぐっとくる。
……私はSか何かなのだろうか。

「そういえば三橋君の家、学校挟んで向こうだよね。帰りそんなに怖がってて、大丈夫?」

何か柳の葉も幽霊に間違えそうだと付け足すと、彼はびくりと固まった。
そしてごにょごにょこんなことを言う。
良く聞こえないので曖昧だが、柳の下には幽霊が出るの出ないの。

きっと怖い怖いと言いつつ、恐怖番組とか目を逸らせないタイプだ、絶対。
そんなことを口にしたら帰り一人になった時に怖くなるのは自分だろうに。

「帰り、私がチャリで送り返してあげようか?」

半分冗談で、半分本気。

三橋君は放っておけない雰囲気を持っているのだ。
そして私は、それに逆らわない。

「い、いい、よ、大丈夫」

けれど彼は焦ったようにぶんぶんと手を振って拒否した。
分かりきった反応とは言え、本当に帰ることが出来るのだろうか。

あからさまに溜め息などつこうものなら、三橋はそれをかなり気にする。
私は吐き出しそうになった息をぐっと飲み込んで、半歩後ろを歩く彼へ向き直った。

……あれ、そういえば三橋って確か。

「ねえ、三橋君、自転車通学じゃなかった?」

「う、え、」

ふと浮かんだ疑問を口にしてみると、今までとは比べ物にならない位の焦り。
ぴょこんと背筋を伸ばしてあらぬ方向へと眼を向けている。

「今日も自転車で来てたんじゃないの?」

「う、うひ」

否定も肯定もしない。
けれどこれでは肯定したも同然だ。

阿部がポーカーフェイスがどうの、と嘆くのも分かる気がする。

「……あのねぇ、心配して送ってくれるのは嬉しいけど、どうして、自転車を置いてくるような真似をするかな」

帰りのことなどは考えていないのだろうか。
多分、いや、確実に考えていないのだろう。

「だ、だって、田中さん、あ、歩き」

「あー、まあ、気を使ってくれたんだよね、三橋君は」

私も普段は自転車だ。

ただ今日は朝自転車のタイヤが見事にパンクしていて仕方なく徒歩だっただけである。
そのお陰で三橋に会えたことにはほんの少し感謝することにしよう。

「でも……」

ふと、おかしなことに気が付く。
三橋は自転車にも関わらず、歩きで校門から走ってきた。
何故だ。

「でもさ、私たち、校門の前でばったり会ったんだよね?」

「そ、そう、かな」

何とも言い難い歯切れである。
これは何かあるな、と感じそれとなく尋ねようと口を開くが、それは言葉にはならなかった。

三橋が私よりも先に声にしたからである。

「オレ、は、田中さんと、少しでも、長くいられて、た、楽しかったから」

そして、へへへと気の抜けるような笑顔で紡がれた言葉には一体どんな意味が込められているのだろう。
それは疑問の答えにはなりはしないのだが、何だかどうでもよくなってしまった。

へにゃりとした笑顔のままの三橋に、こちらも笑顔を返す。

「ね、三橋君。ちょっと待ってて、自転車持ってくるから。学校まで送る」

ぽかんと見返してくる三橋に、こちらが照れる。
何度も訊くなと軽く方を叩いて、私は自転車を取りに行くべく走り出した。



これは、恋というにはまだ早いかもしれない。
でも、いつか、もしかしたら……。




fin...


携帯を急いで取り出す田島に、水谷は不思議そうな表情をした。
だが田島は特に気にすることなく携帯を耳に当てる。

「三橋三橋!」

その声は相当楽しそうだ。

「今、そっちに田中が向かってる。しかも歩き。チャンスだぞ、ゲンミツに!」



三橋の田中情報元は田島。
20070824
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