やはり、野球部見学はあの一回で終わることはなかった。
時折放課後も見に行くことも増えたし、野球部員とは親しくなった気もする。
勿論一番親しくなったと思うのは、篠岡さんだが。

そしてついでに監督さん。あの人、本格的に私をマネージャーか何かに狙ってませんか?



祭りへ行こうか



「そろそろ七夕だよねー」

私がそう言ったにも関わらず、お昼をとった後の野球部員たちの反応はすこぶる悪かった。
やはり練習がきついのだろうか。
田島なんか、机に突っ伏したまま動かない。

「ちょっと、何か反応しなさいよ」

三橋は頭をぐらぐらさせながら聞いているようだが、今にも夢の世界へと旅立ちそうだ。
相当お疲れのようである。
しかもお腹に何かしら入っている状態というのは、眠気のピークは増すばかりだろう。

何となく三橋の頭を机に(優しく)沈ませた後、その様子を見ていた浜田さんに振ってみた。

「浜田さんは、七夕祭り行くんですか?」

「ん、ああ、バイトもないし、多分行く。田中さんは?」

「勿論行きますよー、屋台出ますもん。わたあめりんご飴にかき氷!」

本当は三橋たちも行くのか聞いてみたかったのだが、この様子じゃ無理だろう。

もしかしたら練習だってあるかもしれない。
なかったとしても、貴重な休みだ。
ゆっくり家で休養を取る可能性だってある。

「でも屋台のわたあめって高くねぇ?」

「材料持参したら安くしてくれたりして」

野球部員がお休みしている横で、七夕祭りの話題で盛り上がる。
去年は射的のお店が少なかったとか、そんなこと。
すると突然、田島が身体を起こした。

「やきそば食いてー!」

そして出てきた言葉はそんなもの。
聞けばどうやら、田島は話を聞いていたらしい。

「祭りなんて楽しそうな単語、聞いたら眠れなくなるに決まってんだろー」

「お、なに、田島も好きなの?あの、具の少ないやきそば」

ニヤニヤしながら聞けば、田島もまた、似たような表情で笑う。

「祭りとか、そういうイベントで食うとうまく感じるよな!」

「ねー」

「なー」

田島と浜田さんとで徒労を組んだ、そう思った瞬間、今度は泉の乱入である。

「お前らほんと、食いもんの話しかしねぇのな」

泉は呆れたように、机に突っ伏しながらこちらを見てくる。
視線に、この食欲の塊が!とか含まれている気がした。

何を言う。
人間って、食べないと生きていけないんだぞ。食って大事。

「だってお祭り、テンション上がるじゃん」

突っ伏したままの泉にそう言えば、彼はにやりと笑った。

「テンションが上がるのは同意するよ」

そう言い終わると同時に机から起き上がって、屋台の食べ物の話に花を咲かせている二人を見ている。
そうして泉は少し考えて、こちらを向いた。

「田中、誰と行くんだ?」

「わかんない。今思いついたことだし……」

「部活あるから一緒ってのは無理だけど、向こうで会うことは出来ると思うぜ」

「え?」

「部活はそこまで遅くならないし、帰りに寄ることはできるからな」

そもそも、祭りの雰囲気を見せられて、行かないなんて無理があるだろ、と。
まあ、その言い分は理解できる。
疲れていようがどうしようが、私でも足を運ぶだろうから。

「おお、いいね!」

大人数で騒いだら面白そうだ。
ぐっと拳を作って、いつの間にか起きていたらしい三橋に話題を振る。

「三橋も行くでしょ?」

「へ?」

突然の誘いに目を白黒させていた。
というか、今何の話をしていたかすらも分かっていないかもしれない。

「お祭りだよ、お祭り。部活の後で寄ろうかって話」

「お、まつり」

「そ、祭り好き?わたあめとかやきそばとかイカ焼きとか!」

「おお、す、き!」

「全部食べ物じゃねーか」

私と三橋の会話に入れられた泉の突っ込みは、全身全霊でスルーだ。

「行ったら、現地で会おうかって話してたの」

「う、うん。お、オレも、行きた、い」

ほんの少し視線が下がる。
自分の言ったことに戸惑ったようで、そうして伺うように私を見た。

ここで言うべきことは一つである。

「当たり前でしょ!三橋も来ればいいじゃない。ね、泉」

「部活の帰りだから、部員全員行きそうだけどな」

「お、おお!」

泉の言葉に嬉しそうに笑う三橋に何だか暖かい気持ちになった。
きっと楽しいのだろう。こうやって大勢で騒ぐことが。

三橋は一見人嫌いにも見えるが、付き合えば分かる。
少し人見知りだけど、嫌いなわけではないのだ。
部活仲間とお祭りに行くことを想像したのか興奮気味の三橋に問いかけた。

「楽しみ?」

「た、楽しみ!」


私も、楽しみだよ。




fin...


約束事。
20110621
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