田中桜。
西浦高校に入学。
クラスは九組。
最初に指定された席は運悪く一番前。

この時ほど席を決めた担任を呪ったことはない。
授業ではウトウトも出来ないし、何より、先生が時々ノートを覗き込んで来るのが堪らなく嫌なのだ。

けれどそれも、あと少しの事だった。
担任がようやく、本当にようやく、言ったのである。

「そろそろ席替えでもするかー。帰りまでにクジ作ってくるから、覚悟しておけよ」



新しい席順



「やったー!」

私は担任が教室を出て行った瞬間、両手と声を上げた。

きっと廊下まで聞こえているだろうが、そんなことは関係ない。
だって席替えだ。
ようやくこの一番前の席から、別れを告げることが出来るというのだから。

うきうきと一時間目の授業の用意を始めた私に、斜め後ろに座っていた泉が呆れたように言った。

「何そんなに喜んでんだよ」

彼は特にいつもと変わりなく教科書を取り出している。
別に嬉しくないらしい。

「えー、泉は嬉しくないの?ようやくここからおさらば出来るのに」

「お前はな」

「次もこの席になるなんてこと、よっぽどのことが無い限りないと思うし!」

ぐっと拳を握りながら言えば泉は何かを思い出したのか、小さく吹き出した。
何と視線だけで問えば、彼は身を乗り出して教えてくれる。

「いや、花井ならそこ引けそうだなって」

くっと笑いを堪えながら、吹き出した理由を教えてくれる。
だが私は、その名前にピンとこない。

「花井って誰?」

「野球部。オレと田島と三橋と一緒」

ふーんクジ運悪いんだねぇと返せば、泉はもう一度吹き出した。
どこかのツボに入ったらしい。

珍しく笑いが止まらないらしい泉を眺めながら、私は話に出た人物たちへ何となく視線をやった。
田島は近くの席の男子と、席替えについて騒いでいる。
相変わらずだ。

三橋は、窓際から空を見ていた。
ほわりと、何を考えているかさっぱり分からない表情で、空を。

色素の薄い髪が、午前中の澄んだ太陽の光を浴びてキラキラ光っている。


私は三橋と余り話したことがない。
浜田曰く人見知りらしいが、私に対してはそれとはちょっと違う気がする。
だって他のクラスメイトとは、前より話すようになっているからだ。
私には相変わらず挙動不信だし、目も合うことすら稀。

ここまで徹底されると、嫌われているのかとすら感じてしまう。
けれどあの三橋翻訳機である田島が、それを力強く否定してくれている。
三橋は人を嫌うなんてねーよ、と。

その根拠はと問えば、苛めた相手も嫌わねーからと何故か胸を張られた。
というか、そこは田島が得意気にする場面なのか。

そんなことを考えながら三橋を眺める。
すると気がつかない内に、眉間にシワでも寄っていたのだろう。
ようやく笑いを治めた泉に言われた。

「お前、何、難しい顔してんだよ」

「え、そんな顔してた?」

「うん、してた」

クラスメイトの三橋は泉と同様、可愛い部類に入ると私は思う。
これを泉本人に告げたら、それはもう恐ろしい位の批判を浴びそうではあるが。
そんな、しかも人を嫌うことがほとんど無いらしい彼に、苦手意識に似たものを持たれるのは結構嫌なものだ。
少なくとも嫌われる事をした覚えはなく、私が三橋を嫌っているわけでもない。

「人生って、うまくいかないもんだよねぇ」

「突然なに」

訝しげにこちらを伺う泉に、まぁ私にも色々あるんだよと返して前を向く。
後ろで気になる言い方すんな馬鹿とか言われた気もするが、知らない。

馬鹿とか言われても気にしない。馬鹿って言った方が馬鹿なんだから。




fin...


序章
2008-01-02
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