教室で鳴り響いたのは、席が隣になった男の子の携帯電話だった。

何の変哲も無い初期設定のままの携帯電話のメロディ。
普段なら気にすることも無いのに、何故か気になってしまったその音は。



鳴り響くコール音



「やっべー、音消すの忘れてた!」

その音に慌てて携帯電話をポケットから取り出す男の子を見て、私は少し考える。

何故、彼の携帯電話の音が気になったのか。
何時もの私ならそんなことを考えたりはしない。
新しい学校だからだろうか。

考えが結論に達する前に、予想外なことが起こってくれた。
今度は私の携帯電話のメロディが鳴ったのだ。

「!」

驚いて身体をびくりと揺らすと、隣りの、先程同じく携帯電話を鳴らした彼は楽しそうに笑う。
その手にはまだ、携帯電話が握られている。

「同じ、すっげー偶然だな!」

「あ、うん」

突然話しかけられたことに心臓がうるさく音を立てる。

「でもせんせーがいない時で良かったよなー」

「うん、悪いことで一番最初に名前覚えられるのは嫌だもんね」

「はは、でもある意味インパクトあると思うね、オレは」

「い、嫌なインパクトだなぁ」

彼とは始めて話すはずなのに、テンポ良く進む会話。
多分この人は、クラスの中心になるのだろう。明るくて、楽しい人。

そんなことを思いながら、ふと、視線が気になった。
彼の視線が私の手元に注がれているのが分かったからだ。

「え、っと、どうしたの?」

「ん?あ、オレのことは田島でいーよ」

「じゃあ、私は……」

「桜だろ?」

一瞬動きが止まる自分。

「だってさっき、友達がそう呼んでたから」

何の戸惑いも無く発せられたその言葉は、私の名前だ。

それも苗字ではなく、名前。

まさか名前を苗字とか思っているわけでは……、無さそうだ。
初めて言葉を交わす男の子にそうやって親しげに呼ばれるなんて初めてのことで、私は視線を彷徨わせた。

「な、桜の携帯って何を着メロにしてんの?」

こちらの戸惑いなどお構いなしに、田島は興味津々と言った風に手元を覗き込んでくる。

私はそれで、ようやく思いついた。
先程の、彼の携帯電話の音が気になった理由。

「それ、もしかして初期設定のまま?」

確かさっきなっていた音は、単純なぴぴぴという聞きなれない音だった。
着信メロディを初期にしたままというのはなかなかない。
少なくとも、私の周りにはいなかった。

「そ、昨日買い換えてもらったんだけどさ、まだ何もいじってねーから」

良く見れば言った通り、結構新しい機種である。

「何か良さそうなのあったらちょーだい」

「よ、良さそうなの?」

「そーそー、おすすめなやつ。あ、さっきのとかさ」

田島が指で示したのは私の携帯電話。
どうやら先程のが気に入ったらしく、お勧めなのをと言う割には何でも良い訳ではないらしい。
それで決まりとでも言うように、私へメールアドレスを教えてくれる。

こちらは慌てて彼の言うスペルを電話帳へ打ち込んだ。

「で、でもさ、田島」

「ん、何?名前は悠一郎な」

「着メロ、私と一緒になっちゃうよ?」

もし送ったメロディを本当に着信音にするとしたら、それは私と同じになるということだ。
今のは結構自分も気に入っているから、当分変える予定は無い。
すると田島は軽く首を傾げて、それから笑った。

「いーじゃん。オレは大歓迎だけど」

楽しそうな笑顔を向けてきた彼に、ほんの少し緊張する。
その緊張は心臓の音を妙に大きくさせて私を焦らせた。

その大歓迎という言葉は友人として口にされたものか、はたまた別の意味を持っているのか。
この時の私には、判断することは出来なかった。




fin...


別の意味だった田島悠一郎の言葉。

偶然なんかじゃない様提出。
参加させて頂き、ありがとうございました。
20080427
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