▽【ネタ】もしスコッチが不死身ちゃんと知り合いだったら【亜人をそえて】
2018/06/16 03:25

追手だったはずのライはFBIだった。NOCバレした俺にこんな風に助けの手を伸ばすなんて、随分人のいい奴だ。名前からして日本人らしいとはいえ所属する国だって違うのに。
だが、もう一つ足音がしてしまったなら仕方がなかった。もともとそのつもりだったのだ。だからできる限り使用機器は破壊したし、みっともなく遺書みたいなメールだって送ってしまった。
ライの気が足音に逸れて、俺は改めて覚悟を決める。
ここで死んだら、またあの子の元へ行けるだろうか。あの、死なない女の子。夢かと思った。どんな悪夢かと頭を抱えた。しかも別れ際にドン引きするようなものを渡してきて。ああでも無理だろう。普通は死んだら、そこで終わりだ。
思考がまとまらない。自死でも走馬燈なんか流れるモノなんだろうか。……ごめんな、ゼロ。それと##name1##、約束、守れそうにない。


――引き金をひいて、確かに左胸は貫かれたはずなのに。データが残っているであろう携帯ごと心臓を撃ち抜いたはずなのに。
銃弾が俺の胸の前でひしゃげていた。


「は?」
「な、んだ?」

ライと共に唖然としてしまったのは仕方のないことだと思う。

「待て、なんだこれは」
「……、あ」

銃弾はまるで、俺の胸の前に透明な壁にめり込んだみたいになっている。しかもそれは落ちることなく、空中に留まり続けていた。
その現象に、心当たりがある。
ライは唖然としながらドサクサに紛れて銃を回収していた。でもこっちはそれどころじゃない。扉を開けてバーボンが入ってきても、それどころじゃなかった。

俺は、これを、知っている。

「スコッチ!っライまで、手柄の独り占めは感心しませんね!!」
「バーボンか、悪いが彼は俺の獲物だ。手を引いてもらおう」

胸に掛けたお守り袋代わりがうごめいた気がして慌てて引っ張り出す。視界の端で言い争っていた二人がぎょっとしてこちらを見るが、出来ればそのまま言い争っていて欲しかった。
普通より大きめの布製の袋をこじ開けてひっくり返せば、地面に落ちたのは紛れもなく人の指だ。よく見なければわからないが、一応女性の小指である。
バーボンとライの視線がヤバい。俺もこれはやばいと思うから大丈夫。一番最初これ見た時本気で怒ったから。

「え……スコッチ、おまえ、え……?」

本気でドン引きしているらしい友人には悪いが、もうそれは始まっていた。
指から先が、生成されていく。
まずは手だった。桜色の爪が、手の形が、記憶と同じもので。するりと腕が出来上がっていくのを見ながら上着を脱ぐ。前に服は直らないと愚痴をこぼしていたのを忘れたりはしない。……正直年頃の女の子が男の前に素っ裸で出てくるのは問題がある。

「二人ともちょっと視線外してやってくれ」

上半身と頭ができた時点でそう声をかけてみたものの、反応はない。仕方がないといえば仕方がないが、一応その上から上着を被せた。丸見えよりはいい。
服の下で人の身体ができていく。足が伸びて、右手の爪がコンクリートの床を引っかくような仕草を見せた。多分すでに頭は出来上がっているだろう。そっと膝をついて手を伸ばせば、触れる前に上着から手が伸びてきた。

「わたしのお守りは役に立った?」
「ああ、役に立ったよ」
「ほんとうに上手くいくなんて思わなかった」
「……なにしたの」
「……怒んない?」
「場合による」
「じゃあ言わない」

俺の服を羽織って笑顔を浮かべた##name1##に、思わず泣きたくなる。もう会うことはないと思っていた。心の中でだけれど別れの言葉まですませたのに。彼女はここにいて、俺は生きている。
そっと頬に手を添えると猫みたいに擦り寄ってきて、それからぐるりと後ろを向いた。その眼にはきっと外見には相応しくない獰猛さが光っている。
バーボンとスコッチは反射的に警戒態勢を取った。

「あれをボコボコにすればいいの?」
「やめて」
「だって命の危機って……まさか、自分で?」
「大丈夫だから。……ライもバーボンも銃を下してくれ」

けれど勿論、二人は武器を下ろしたりしなかった。

「亜人にそんな程度のモノじゃ牽制にもなんないけど」

そして##name1##も積極的に煽るスタイルだ。
もう場の収集がつかなくなっているのは諦めるが、ここでこれ以上長居するわけにはいかなかった。俺自身のこともそうだが、##name1##の存在を組織に知られるわけにはいかない。それだけは絶対に阻止しなければ。

「スコッチ、今何が起こったのか説明する気はありますか?」

きれいな顔を引きつらせながら問いかけてくるバーボンに視線でやめろと伝える。##name1##に銃は脅しにもならない。

「こいつは、俺の恩人なんだ」
「"わたしの"恩人でしょ。……この人に手を出すつもりなら、わたしがあんたたちを殺すけど」

だって一回死んだら終わりでしょう?
続けられた歌うようなセリフに一瞬でも思考する余裕が生まれたのか、バーボンがふとライを見た。

「ライもNOCか」

ライの視線がバーボンへと向かう。もし彼がバーボンを組織の一員だと疑っていないのなら、危ないのは親友だ。俺はNOCでライも同様。そして突然現れた##name1##が俺を守ると笑うのならば、バーボンである安室透はたった一人の敵になるのだから。
ライの銃口がバーボンを捉えようとした瞬間、銃自体が遠くに吹っ飛んだ。

「そういう物騒なものを、わたし以外に向けないでくれる?」

かしゃんと少し遠くに落ちた銃は、何かに切られたように真っ二つになっている。ライが信じられないと固まっているが、その目に浮かぶのはどちらかといえば混乱だろう。
俺の上着をしっかり着なおして、##name1##は立ち上がった。そうして未だバーボンから向けられた銃口に気にすることもなく、ちょっと考える素振りをする。

「もしかして:全員味方?」

廃ビルの屋上がかつてないほど混沌としてしまって、俺は思わず空を仰いだ。


end...





「え、こっちに来た方法?」
「そう、来た方法」
「人がやってた方法を真似ただけ。亜人は一番大きな肉の塊から再生するっていうのがじょーしきで」
「…………ものすごく無茶したってことだな?」
「だ、断頭経験済みの私には、その程度ぎりぎりいけるから」
「だから俺に処理済みの小指なんか渡したのか!!」
「でもでもアレ渡してから一回も死んでないんだよすごくない!?」
「まずそのインスタント感覚で死ぬのを自重しろ!」

「スコッチ、ちょっと会話への理解が追い付かないので全部に注釈入れてください」




「わたしには死ぬことが良く分からない」

心臓が止まれば終わりということは知っている。でもその重要性が理解できない。理解できなくなってしまった。

「だってわたしは何度も死んだ。数え切れないほど切り刻まれて、いつの間にか、死ぬことは痛みから逃れる手段になってた」

悲鳴を上げたって懇願したって止められることのなかった残虐な行為に、わたしの中の色んなモノが死んでいったんだと思う。そしておそらくその感覚は、もう治ることはないのだろう。

「でも、でもわたしは、景光は死んで欲しくないって考えられた。亜人だと分かってから初めてだったの」

その瞬間を思い出す。胸に広がるのは甘い想い。心の中に味なんてないのに、あれはそうだと断言できる。わたしの一番大切な思い出。

「人に抱きしめられたのは」

「待てゼロ、ものすごく誤解がある」
「誤解も何も本人からの被害相談……」
「お二方、これ一応シリアスパートなんですけど???」




怪我をしたら手当てすること。
危ないと思ったらとにかく逃げること。
何かあったら相談すること。
本当にどうしようもなくなった時以外は、絶対に死なないこと。

ひとつひとつ大事に言い含めてくるきれいな人に、少し居心地が悪くなって景光を見た。彼はその視線に気が付いているはずなのに、楽しそうに見ているだけで助けてはくれない。ひどい。

「聞いてますか」
「き、きいています……」

やっぱり困って景光を見る。助けるつもりはない、の笑顔だ。ひどい。

「でもまずそのインスタント感覚で自決する癖をどうにかしないといけないですね」
「いんすたんとかんかく」
「ええ、スコッチの言葉を借りました。でもその通りなんでしょう?」




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