そして、色々な事があった三日間は幕を閉じた。

「遅刻・・!」
「もういいじゃない」

焦るナマエとは対照的に、「ゆっくり行こうよ」と呟く総司。二人は今日も走っていた。

「いい訳あるか・・!」
「本当面倒なくらい真面目だよね、君」

そんないつもより速いナマエに総司はため息を吐きながら隣を走る。

「大体誰のせいで寝坊したと」
「君のせいでしょ」
「!」

即答する総司を驚いて見つめた。朝中々起きなかったのは明らかに彼だったはず。なのになぜこうもきっぱりと言い切れるのかと。

「君が可愛いからいけないんだよ」

フッと総司は昨晩の事を思い出したかの様に笑った。

「僕に縋り付いて何度も、」

そんな総司にナマエは竹刀を振り下ろした。

「・・ちっ」
「・・昨日のは夢だったのかな」

ひらりとかわした総司に、ナマエは心底悔しそうに舌打ちを零す。そんな彼女に総司は思わず苦笑いを零した。

「でも、」
「!」

そう言って総司はナマエの手を握った。

「夢だったなんて言わせない」

そんな総司にナマエは思わず息を止めた。

「もう君は、僕のものだ」

握った手を口元に当てて、総司はナマエを見つめた。

「・・っ誰も夢なんて言ってない」
「そう?」

なら良かった、と二人は手を繋いだまま学園へと走って行った。

「あ、ナマエちゃんやっと来た」
「千鶴、」

校門まで辿り着くと、千鶴が「おはよう」と言って笑った。

「どうしたの」

そんな待ち構えていた様な千鶴にナマエは首を傾げる。

「なんか原田先生が連れて来てくれって、沖田先輩を」
「僕?」

千鶴の言葉に今度は総司が疑問の声を上げた。どうやら千鶴もその理由までは知らないらしく、三人揃って教室へと向かった。

「お、ようやく来たな」

教室に入って来た三人を見て、チャイム前にも関わらずそこにいた原田はそう声を上げた。

そして予鈴ギリギリという事もあり、一年一組は全員がその教室に集まっていた。

「ここで、お前たちに発表がある」

ドンっと教壇を叩いて、熱のこもった原田の声が教室に響く。そんな原田に皆は思わず息を飲んだ。

「これだ!」

そう言って原田が掲げたもの、そこには賞金の文字があった。

「イケメンコンテスト、優勝だぞ!」
「!」

そんな原田の言葉に皆はわっと声を上げ、どんちゃん騒ぎを始めた。そんな中、ナマエは呆然と目を瞬かせた。

「すごい!凄いよナマエちゃん!」
「う、うん」

そう言って千鶴はナマエの手を取って飛び跳ねている。俄かには信じられていないのか、ナマエはそんな煮え切らない返事をした。

「良かったね」

総司はそう言ってナマエの頭に手を置いて、顔を覗き込んで笑った。

クラスメイトも肩を抱き、衣装班はやっぱり 頑張った甲斐が、と泣いていた。

「まぁ、総司もうちのクラスとして勘違いされたってのもあるけどな」

苦笑いを零す原田に、総司はだから自分も呼ばれたのだと納得した。

「ほら、ナマエ来いよ!」
「主役だろ!」
「え、・・わっ」

平助と龍之介に手を引かれ、ナマエは皆の輪の中に入って行く。

そんなナマエが僅かに振り返れば優しく微笑んだ総司の顔が見えて、ナマエはようやくその顔に笑顔を灯した。

「って事で、お前ら!写真撮るぞー!」

原田の言葉におおー!と机の大移動が始まり、ナマエと総司は新選組の衣装に身を包んだ。

「なんで俺がこんな事の為に」
「硬いこと言うなよ、土方先生」

カメラを構えた土方が機嫌悪そうにそう呟く。

「おら!早くしろ!」

俺は忙しいんだよ!と叫ぶ土方に皆は教室の後ろに並んだ。

「僕は勿論、君の隣だよね」

皆に連れられてその中心にいたナマエの隣に、そう言って総司が腰掛けた。そしてギュッとその手の平を握った。

「ね、ナマエ」

そう笑う総司に、ナマエも嬉しそうに笑った。

「撮るぞ!」

そしてナマエはその笑顔のまま、カメラへと笑った。





「いつまで見てるの」

帰り道、今朝撮った集合写真を眺めながら歩くナマエに、横を歩く総司はため息混じりにそう呟いた。

「変な感じ」

自分がクラスの中心にいる。そんな事は生まれて初めてだ。小中共に友達なんていなかったナマエは、集合写真と言えば一番後ろの、一番隅の方。いてもいなくていい様な、そんなものだった。

たかが写真一枚、でもナマエにとってそれは、かけがえの無い奇跡の様な一枚だった。

「これ、」

先輩の、とナマエはその手にある物と同じ物を総司に差し出した。今朝撮ったそれを、仕事の合間を見て原田が現像したのを帰りに配られたのだ。

「いらないよ」

そんな総司の言葉に、ナマエは少し残念そうに俯いて手の中の二枚を見つめた。

「だって君が持ってるでしょ」

そう言う総司にナマエは顔を上げて総司を見つめた。

「一つのアルバムに、同じ写真はいらないよ」

フッと微笑む彼の顔が夕日に照らされて、より優しく感じた。

「これからたくさん撮ろうね」
「うん・・!」

総司の言葉に、ナマエは微笑んで頷いた。

「あ、」

そしてふとナマエが何か思い出したかの様に、そう言えばと声を上げた。

「昨日の写真、送って欲しい」

そう言って徐ろに鞄から携帯を取り出すナマエに、総司は目を見開く。

「・・君、携帯持ってたの」

はぁ、と言う総司に、ナマエは首を傾げながら頷く。

「家を出る時に買ってもらった」

殆ど使った事ないけど、と言うナマエに総司は思う。って言うか使った所を見た事がない、と。

「じゃあ番号教えてよ」
「それ、この前教わった」

そう言って少し得意げに操作するナマエに、総司は思わず眉をしかめた。

「それは、誰にかな」
「クラスの皆」

ナマエは総司の顔を見ずに、「おかしいな」と携帯と格闘している。

「って事は、クラスの皆は君の連絡先を」
「全員知ってる」

総司の表情の変化に未だ気付いていないナマエは、サラッとそう言った。

「!」

途端、ナマエの両頬が左右へと伸びた。

「・・にゃに」
「そんな可愛く言っても、許してあげないよ」

ようやく目が合ったナマエは、謎の行動に出た総司にそう言って顔をしかめた。

「ひはひ」
「何言ってるか分からないな」
「ははへ」
「キスして欲しい?」
「っ、」

悪戯な笑みを浮かべる総司に、ナマエは遂に限界を迎えた。

「は、・・なせって言ってるっ!」
「あは、残念」

だがやはりその振り下ろされた竹刀が彼に当たる事はない。

(なんなんだ・・!)

赤くなった頬を摩りながらナマエは心で呟く。

「まぁ、いいけどさ」
「!」

そう言って総司はナマエの肩を抱いて、目の前に携帯を掲げた。

「大好きだよ」
「・・っ」

そう言って唇を重ねた。瞬間、シャッター音が目を閉じたナマエの耳に聞こえた。





「あら、」

ピロン、と携帯が小さな音を立てて、ナマエの母は画面上に出て来た名前にそう声を上げた。

「お父さーん!ナマエから初めてメールが来たわー!」

母は少し興奮気味に、玄関から戻って来た父にそう声を上げた。

「なに?ナマエから手紙も届いてたぞ」
「あら」

そう顔を見合わせて、母はメールを、父は手紙を開いた。

「これは・・!」
「あらあらあら」

そこにはダンスパーティーで最後に撮った画像と、クラス写真が入っていた。

「優勝しました、か」

写真と共に入っていた一言だけの手紙。それを父は感慨深く読み上げた。

「ナマエちゃん、綺麗ね。総司くんもイケメン過ぎるわ」

やっぱり、と母はふふ、と笑った。

「母さんの若い頃そっくりだな」
「私の子だもの」
「しかし、」

クラス写真を見つめて、父は僅かに顔を歪めた。

「クラスに女の子がナマエともう一人とは・・!」


文化祭の時は一般客もいた為、ほぼ男子校状態だとは二人は気付きもしなかった。

「まぁまぁ、楽しくやってるようだし」

いいじゃない、と言う母に対し、父は煮え切らない様だった。

「あそこは今年から共学になったみたいね」
「そうだったのか。そうとは知らずに・・」
「いいじゃない、あの子が幸せなら」
「そうだな」

母の言葉に肩を抱いた父が頷く。二人の視線の先にはは、弾ける笑顔を見せる我が子がいた。