「両学園一、二年の集計終わった」
「三年のも終わったぜー」

生徒会室にて、ナマエと不知火はそう風間に報告して書類を手渡した。そんな二人に風間はご苦労、と小さく言葉を掛けた。

「はぁ、取りあえずひと段落かー」

不知火はそう言ってソファーへ崩れる様に腰を下ろした。だがそんな不知火とは反対にナマエは生徒会室を後にしようとする。

「どこ行くんだよナマエ」

不知火がそう声を掛ければ、ナマエは足を止めてそちらを見つめた。

「クラスを手伝って来ます」

それだけ言ってナマエは失礼します、と足早に去ってしまった。

「あいつ、どんだけ働くんだよ」

その仕事量に不知火は思わずげんなりしながらそう言葉を漏らした。

「・・ふん、」

風間はそんなナマエが去って行った扉を、意味深に見つめていた。

文化祭は一ヶ月後に迫っていた。生徒会の仕事は業者への委託を終えひと段落したものの、今度はクラスの準備が本格的に始まる。ナマエに休む暇はなかった。

「ナマエちゃん、腕上げてくれる」
「うん」

そして教室についてナマエの衣装の寸法合わせが始まった。その他のクラスメイトは先日ダンスパーティーの為に集計した寸法をナマエが既にピックアップしていた為、作業は大幅に楽になった。

ナマエは千鶴にそう言われ腕を上げる。上から下まで測って、千鶴はよし、と声を上げた。

「終わったよ」

千鶴がそう笑えば、ナマエもありがとう、と微笑んだ。

「でも平気?やっと生徒会のお仕事終わったんでしょ」

千鶴は心配そうにそう言葉を漏らす。

「こっちは皆に任せて少し休んだ方が」

千鶴がそこまで言ったところでナマエは首を横に振った。

「大丈夫」

そして「それに、」と言葉を付け加えた。

「皆でやるの、楽しいし」
「ナマエちゃん・・」

そう言って周りを見渡すナマエの横顔は、確かに楽しそうに見えた。生徒会の仕事は一人で黙々とやるか、指示を出して纏めるのが主だった。それが苦だった訳ではない。

だがクラスの出し物となればそんな作業はなく、皆で考え、協力してやる。そんな些細な事がナマエは楽しくて仕方なかった。

「じゃあ、一緒に頑張ろうね!」
「うんっ」

二人は、そう言って笑い合った。

そして数日後、二人の衣装が完成した。その余りの早さにナマエは驚いたが、今にも死にそうな衣装班を見て感心していた。

「おおー!」

衣装に袖を通した二人に、歓声が上がった。ナマエは作る早さにも驚いたが、その完成度の高さにも目を見開いた。

「凄い」
「で、でも少し恥ずかしいね」

千鶴がそう言った言葉にナマエは何がだ、と千鶴を見る。そんなナマエに千鶴は思わず苦笑いを零した。

そしてなぜかその場で写真撮影が行われた。戸惑う千鶴とは裏腹に、ナマエは男子たちの要望に真顔で答えていく。

「僕は一回転して欲しいな」

ふと撮影の最前列から、普段クラスから聞こえない声が聞こえて、一瞬にしてその場が静まり返った。

「沖田先輩!?」
「・・何してる」

なぜ誰一人気付かなかったのか。二人の正面でしゃがみながらスマートフォンを掲げる総司に、千鶴やクラスの皆は目を見開き、ナマエは呆れた声を漏らした。

「ちょっと散歩がてら来て見たら、なんか楽しそうだったからね」

つまりはサボってたのか、とナマエはため息を吐く。

「ところで、」

そう言って総司は女子二人に背を向け、男子へと振り返った。それにクラスの皆は肩を揺らした。

「この衣装、誰が作ったのかな」

その言葉に衣装班から声にならない悲鳴が聞こえた。そこにゆっくりと近付く総司。誰もが思った。御愁傷様、と。

「いい仕事したね」

ポンっと衣装班の内の一人の肩に手を置いて、総司はそう笑った。思わずその彼からは へ?と間抜けな声が漏れた。

そして衣装班から啜り泣く声が聞こえて来た。聞けば寝る間も食事をする暇も、何もかも惜しんで作ったのだ、と言う。

そんな彼らにナマエは心底感謝した。その努力に、敬意を示した。

そしてナマエは彼らの元へと歩み寄り、啜り泣く一人の手を取って笑った。

「本当に、ありがとう」

その笑顔に誰もが息を忘れた。衣装班の涙は止まり、手を取られたクラスメイトは思わず頬を染めた。

「!」

途端、カシャっと一つのシャッター音が聞こえた。総司は思わずナマエの手を引いて自分の背後へとその身を隠した。

「何する」

ナマエがその表情を伺おうとも、強めに握られた腕によってそれは叶わなかった。

「誰かな、今撮ったの」

ナマエには「さっさと渡しなよ、」と言う総司の言葉と、青ざめながら震えた身体を寄せ合うクラスメイトたちが見えた。