「っ、!」
女子更衣室、なぜかそこに総司の姿もあった。ナマエは背中に当たったロッカーの衝撃に思わず顔を顰めた。
「んん!」
両腕を掴まれて唇を塞がれる。荒い息が更に途切れてナマエは息苦しさに眩暈がした。
だけど最早ナマエには抵抗する気力も体力もなかった。されるがままに袴が脱がされナマエの着ているものは僅かになる。
「はあっ・・、!」
唇が離れて腰を引かれた。途端、両手と頬が冷たいロッカーに触れた。
「あ・・っ!」
乱れた上着から僅かに見えた背中に総司は舌を這わせ、両手はナマエの下着の中へとそれぞれ身を隠した。
「あっ、あ」
全く力の入らない身体へ総司が与える刺激が直接脳に響いてナマエはまだ学園だという事も考えられずに声を上げた。
「ナマエ!」
「!」
突然大きな音を立てて更衣室の扉が開いた。そして目の前の光景に入って来た斎藤は大きく目を見開いた。
「お、お前たち・・何を、」
そこまで言って斎藤は言葉を止めた。見つめたナマエの瞳から涙が伝っていたからだ。
「総司、貴様・・っ!」
斎藤は怒りに満ちた表情で近付いて行きナマエの腕を掴んで引き寄せようと力を込めた。だがナマエの腹部に回された総司の手によってそれは叶わない。
「離せ、総司」
「どうして僕が離さなきゃいけないのかな」
ナマエを挟んで二人が睨み合う。
「ああ・・っ」
「彼女、こんなに気持ち良さそうなのに」
「・・っ」
目の前で喘くナマエの姿に斎藤は思わず表情を歪めナマエの腕を握った手に力を入れた。
「や・・みな、いで」
「ナマエっ・・」
涙を流しながらも喘くナマエに斎藤のグッと堪える様に歯を食い縛る。だがナマエの姿から目を離すことは出来なかった。
「斎藤、先輩・・っ」
「くっ・・」
そして苦しげに名前を呼ばれ斎藤の理性は呆気なく崩れた。
「んんっ・・!」
「っ・・ナマエ、」
斎藤は思わずナマエの頬を掴み口付けを始めた。どちらかともなく舌が差し出されそれは絡み合った。
その間も総司には下半身を刺激されナマエは立っているのがやっとだった。自分に何が起きてるのか理解も出来ず、ただ与えられる快楽に溺れていた。
「ナマエ、」
総司が名前を呼べば顎を掴まれ後ろから口付けが降り注ぐ。そうすれば斎藤はナマエの身体へと唇を落とした。
代わる代わる繰り返される口付けと愛撫に既に狂っていた。それは一人の少女を貪る二人も変わらない。
「・・ナマエ、」
「ナマエ・・っ」
二人から名前を呼ばれ、二人から既に無くなりかけてた体力を全て奪われ、ナマエが意識を手放すのに時間は掛からなかった。
「・・・」
総司は意識を手放したままのナマエに制服を着させる。そしてナマエを抱き抱えて更衣室を後にしようとしてふと足を止めた。
「ああ、そうだ」
ふと顔だけ振り返って自己嫌悪に苛まれた斎藤を冷たい瞳で見つめた。
「今日の事は全部忘れてよ」
「!」
総司の言葉に斎藤は思わず俯いていた顔を上げた。
「思い出したり、また彼女に触れようものなら」
「・・っ」
斎藤はグッと自分の手の平を握り締めた。そんな彼に「分かってるよね」と総司は冷酷な笑みを向けてその場を去って行った。
「高すぎる口止め料になっちゃったな」
腕の中のナマエを見つめながら総司は顔を歪めた。
他にも選択肢はあったはずだ。それでもまた黒い自分が顔を出した。無理矢理彼女を抱いた、あの日の様に。
誰にも触れられたくなかった。あんな彼女を見られたくなかったはずなのに。それでも昼間の苛立ちと、最後に斎藤がナマエを抱きとめた姿に理性は飛んだ。
そしてやっぱり今更さっきの光景が浮かんで胸の中がまた騒ついた。
「消毒、しなくちゃね」
僕だけの君でいて欲しいから、そんな総司の笑みは月明かりによって妖しく見えた。
◇
「・・ん、」
ナマエは心地よい温かさに目を覚ました。少し動けばポチャン、と音がして下を見つめる。
「私、いつの間にお風呂に」
「ようやく起きたね」
すぐ後ろから声が聞こえて思わず振り返る。
「なんで、」
いるのか、と言ってから考えた。自分はどうやって家に帰って来たのかと。ふと風呂場を見渡せば見慣れたそこだと思っていた場所に自分の物ではない物が幾つもあってそこが自分の家ではない事を知る。
「僕の家だよ」
後ろからギュッと抱き締められて疑問に思っていた答えが返って来た。
「覚えてないの」
その方がいいけど、と言う彼の言葉に前に回された腕に手を添えて記憶を巡らせハッとした。
「私、斎藤先輩と・・」
そこまで言って思わず口を塞いだ。サーッと血の気が引いて顔が青ざめた。
「・・ごめん」
総司がナマエの肩に額を付けてそう呟く。
「僕はまた、君を・・」
「先輩・・」
俯く総司を見てナマエは顔を歪める。
「だから、」
「!」
だが突然動き出した総司の手にナマエは目を見開く。
「君から、はじめくんの痕を消させて」
「っ・・」
お湯の中で総司の手がナマエの身体を這う。下を見れば彼の手が自分を責める指が鮮明に見えて、ナマエの身体は嫌でも熱くなる。
「ふ・・っん、」
優しい手付きにナマエの身体の力が抜けていく。反響する自分の声が耳に付いてナマエは手の甲で口元を抑えた。
「もっと聞かせてよ、君の声」
「んっ・・!」
ふと耳元で囁かれて思わず声が出た。そこを執拗に舐め上げられてナマエは吐息を漏らす。
「こっち向いて」
そう言われて顔を後ろへと向けた。そうすれば優しい口付けがナマエに降り注ぐ。
「・・っん、」
「・・ごめん、本当に」
唇を離して哀しげな瞳がそう呟く。ナマエは喘きながらもその頬に手を当てた。
「先、輩・・っ」
「ナマエ・・」
口付けを重ねて二人は風呂場を後にする。身体を拭いて総司はナマエを抱える。そしてそっと自分のベッドに彼女を下ろした。
「・・っ」
ナマエは寝転んだ途端にベッドから香る彼の匂いに思わず目を細める。
ジッと部屋を見廻そうと首を上げようとしたが頬を総司に包まれてそれは叶わなかった。
「部屋なら後で好きなだけ見なよ」
特に何もないけどね、と総司は笑って口付けを落としていく。
「でも、君が途中で気を失って良かったよ」
ナマエの足を抱えながら総司はふとそう呟く。
「君がはじめくんに最後までされてたら、僕は本当に自分を許せなかった」
「先輩・・」
そう、先ほどはナマエが気を失った事により二人からしたら途中で終わってしまった。でも結果的にそれで良かったと総司は心底思った。
そしてフッと小さく笑って「いくよ」と声を掛けた。
「あ・・っ!」
「・・っ」
彼の匂いと温もりに包まれて二人は闇の中で一つになる。
「全部忘れて、僕だけ感じて・・っ」
身勝手な言葉だと思ってもそう願わずにはいられなかった。