「−−・・僕は、何してるんだ」

目の前に転がった、半ば気絶する様に眠った彼女を見下ろして、総司は荒い息のままそう呟いた。

自分がこの家に来て何時間経ったのか、それすら分からないが、まだ明るかったはずの外はすっかり暗くなり月が空高く昇っていた。

「ごめん・・っ」

目を閉じたままの彼女の頬を包んで、額を合わせた。自分のしてしまった事にギュッと目を閉じる。

すると先ほどのナマエの顔が浮かんで来た。恐怖と痛みに歪み、泣く彼女の声が今更聞こえて来た。

見ればその目元は赤く、涙の跡がクッキリと残っていた。

「・・っ」

そこに出来る限り優しく口付ける。

「好きだよ・・」

こんな言葉を言う資格なんて、もう既にないのだろう。でも言わずには言われなかった。

「君が、奪われるかもって」

そう思ったら気が狂いそうだった。自分ではない他の人に彼女が触れて触れられて、嬉しそうに話しをする姿に自分の中で何かが一つずつ壊れていった。

その視線が一瞬でも自分以外を見つめる事に、嫌悪感しか生まれなかった。

「僕だけが見てる君を、誰かに見られたくなかった」

そんな君を、遠くから見る事しか出来ないなんて、堪えられなかった。

はじめくんを良い人だと笑った無垢な顔が胸に突き刺さって、辛うじて堪えていた物が全て崩れた。

そこから生まれた負の感情。どうせ奪われるなら、汚してしまえばいい。

彼女を押し倒した後は、何も感じなかった。無我夢中で彼女を抱いた。その苛立ちに全てを委ねて。

「僕の、ただの我が儘だ」

ただそれだけで彼女をこんなにも傷付けた。

「本当に、!」

ごめん、そう言葉にしようとした瞬間、自分の首に腕が纏わり付いた。それに閉じていた目を開けた。

「ナマエ・・」
「・・ばかっ」

数センチしか離れていない彼女はまるで総司の言葉を聞いていたかの様にそう言って涙を零した。

「・・っ」

そんなナマエに総司は胸に痛みを感じた。でも、彼女はもっと強い痛みを感じたはずだ。自分の痛みとは比にならないほどの痛みを。

そう思うと彼女に触れる事がとても恐怖に感じた。また彼女に痛みを与えてしまうかも知れない。

また彼女をこんな風に泣かせてしまうかも知れない。それは彼女を奪われること以上に恐ろしく思えた。

「もう、君に会わないよ」

そっと頬を撫でてその涙を拭う。

「だから、安心して」

触れるだけのキスをして離れようと腕に力を込めた。

「!」

でもそれは他でもないナマエの腕によって叶わなかった。離れようとした瞬間に込められた力に総司は驚きを隠せなかった。

「こうしていたら僕はまた君を傷付けるかも知れない」


無理しなくていいよ、と総司はナマエの髪を撫でた。君は優しいから、勘違いしてしまうと。

だって現に首に回された腕がずっと震えている。当然だ。それだけの事を自分はしてしまったのだから。

「!」

ふとナマエがぎこちなくその唇を総司に押し付けた。

「・・っ」

重なった唇に総司は思わず顔を歪ませる。彼女に触れそうになる腕にギュッと力を入れてそれを制していた。

「・・っ私は、傷付いてなんかいない」
「!」

だから、そう言ってナマエは総司の頬を包んで自分へと引き寄せた。それが言葉の続きだと言わんばかりに。

「・・本当に君は、優しすぎる」

そんなナマエに、総司は顔を歪ませたまま口付けた。

「ん、・・っ」

今度はゆっくり、じっくりその唇を味わう様に口付ける。ナマエの頬に手を当てればナマエはそっと目を閉じた。

「ナマエ、これ以上したらまた」

僅かに離した唇で総司は目を細めてもどかし気にそう言葉を漏らす。その息使いは既に苦しそうだった。

「ん、」

だがそんな言葉もナマエに飲み込まれる。総司はそんなナマエに酔ってしまいそうだった。重なった肌から熱がじっくりと身体全体を侵食していく。

そして総司はそっとナマエの身体に手を伸ばす。触れれば僅かにナマエが身を捩った。

「今度こそ、優しくするから」

耳元に口付けをして総司はそっと身体を離す。そんな総司にナマエは熱に浮かされたまま頭に疑問を浮かべた。

「!」

そして総司はナマエの足を抱えて、音を立ててそこに口付けを落としていく。総司の唇が触れる度ナマエの身体が僅かに揺れた。

「ごめん、痛かったよね」
「別に・・っ」

布団には僅かに赤い跡が残っていた。

「なっ・・!」

ナマエは総司の行動に思わず目を見開く。総司が足を広げた先に顔を埋めたからだ。

「待っ、・・っ!」

制止しようと腕を伸ばしたが既に遅かった。傷付いてしまったそこに総司は舌を伸ばす。

「ん、ん・・っ」

嫌でも漏れる自分の声にナマエは口元を手で抑える。指とは違ったその感覚におかしくなりそうだった。

「やっ・・!」

ふと総司がその上に慰める場所を変えた。すると、ナマエは仰け反る様にして身体を善がらせた。

「待っ、て・・!や、そこ・・は!」

抑え切れなくなった声と総司が責め立てる音が部屋に響いた。ナマエはその刺激に抗う事が既に出来なくなっていた。

徐々に薄れる意識と理性。いつからか声を抑えようと言う気すら失くなっていた。

「先、輩・・っ、や、だ・・!」
「どうして?今の君、凄く可愛いのに」

もっと鳴いてよ、なんて言葉にナマエの身体は更に熱を帯びて行く。

「やぁ・・、!」

ナマエはその押し寄せる快感に、思わずギュッと目を閉じて身体を震わせた。

「可愛い」

肩で息をするナマエにようやく顔を上げた総司はその口元を舐め取りながら笑った。

「先、輩・・っ」
「!」

そう総司を呼んで両手を広げるナマエに総司は目を細める。

「だから、あまり可愛い事しないでよ」

我慢出来なくなる、そう言って総司はナマエの腕の中へと堕ちていった。

「ん・・ふ、」

長くて深い口付けをしてナマエの瞳はトロけてしまいそうだった。

「いい・・?」

少し離れて総司が短くそう問い掛ける。それが何を意味するのか理解したナマエは小さく頷いた。

「あ・・っ!」
「っ・・!」

ナマエの身体に総司が徐々に食い込んでいく。その感覚に二人は息を止めた。

「ナマエ、痛く ない・・?」

全てがナマエに収まって総司は固く目を瞑ったナマエに問い掛ける。

「ん・・平、気」

とてもそうとは思えない表情に総司は困った様な笑みを浮かべ、ナマエに口付け落としていく。

「ナマエ、口開けて」
「ん・・っ」

途端絡まる舌にナマエは僅かに目を開いた。それによって力が少し抜け総司はゆっくりとその腰を動かした。

「ん、・・ああっ」

初めは痛みに堪えている様だったが段々とその声が悩ましげになって総司は唇をようやく離した。

「ナマエ・・っ」
「あ、せんぱ・・いっ」

ギュッと手を絡めて、二人はお互いを呼び合う。徐々に速くなる動きにナマエは思わず顔を背けた。

「ダメだよ、」

だがそれを総司の手の平が許さなかった。

「君の顔、もっと見せて」

僕だけが知ってる君を、そんな甘い言葉にナマエは目を細めた。

「好きだよ・・っ」
「・・っ」

そんな優しい言葉と微笑みに、ナマエは一筋の涙を零した。