「おかえり」
「!」
玄関の鍵を開けた瞬間、隣の部屋の住人がそう言って顔を出した。
「・・ただいま」
余りの速さに思わず戸惑いながらも、ナマエはそう言って言葉を返す。
「どこ行ってたの」
総司は知っているにも関わらず、シラっとそう問い掛ける。
「斎藤先輩と剣道用品の買い物」
それに特段気にもせずにナマエはそう言った。
「ふーん、楽しかった?」
「まぁ・・」
へえ、と意味深な総司にナマエは首を傾げる。そんなナマエを貼り付けた様な総司の笑顔が見つめた。
「それは?」
総司の視線の先にある物、それはナマエの肩に掛けられたやたらと長い袋だった。
「ああ、これは」
そう言ってナマエは袋を開ける。そこからは一本の竹刀が顔を出した。
「斎藤先輩がオススメを教えてくれた」
そう言うナマエの顔は、どこか嬉しそうだった。
「手にしっくり来る」
良い買い物をしたと言わんばかりにナマエの顔を綻ばせる。それに総司は「それって」と言葉を返した。
「はじめくんとお揃い、って事?」
「・・そう言う事になる」
だからなんだ、と言わんばかりのナマエに、総司は「良かったね」と小さく言って笑った。
「今日君の家に行ってもいい?」
久々に君の鍋が食べたいな、と総司は言う。そんな総司の言葉にナマエは静かに頷いた。
「楽しみだな」
そう言って開かれた瞳は、笑っていなかった。
「今日は何鍋かな」
家に入り料理を始めたナマエの手元を覗き込みながら総司はそう呟く。
「みぞれ鍋」
「へえ、食べた事ないや」
そんな言葉が直ぐ後ろから聞こえた。
思えば総司がナマエの家に来るのは二度目だ。初めて口付けをしたあの日から、随分時が経ったとナマエは食材を切りながら思う。
「・・ねぇ、」
そしてふと総司が口を開く。ナマエは振り返る事なく「何、」と言葉を返した。
「はじめくんはどうだった?」
彼、優しかったでしょ。と総司は言う。自分で言った言葉に胸が騒ついた。
「うん」
「剣道好きな者同士、気が合ったんじゃない」
総司の言葉に、ナマエはもう一度「うん」と頷く。その頬は思わず綻んでいた。
『俺も、あんたの友達にしてくれるか』
そんな言葉を思い返して、そしてゆっくりと振り返った。
「凄く、良い人だ」
その満面の笑みに、総司の中で嫌な音が鳴った。
「先輩・・?」
無言で近付く総司にナマエは首を傾げる。
「・・先、輩」
その物々しい雰囲気を察知して、ナマエが顔色を変えた。そんなナマエに総司は冷たい笑みを浮かべた。
「やだな、どうしてそんなに怯えてるの」
「・・っ、!」
後ずさろうとしても、直ぐに台所に身体が当たる。
「・・捕まえた」
ナマエの背後の台所に両手を置いてその腕の中にナマエを閉じ込める。ナマエは見た事もない様な彼の表情に身体を強張らせた。
「なん、で」
ナマエが僅かに漏らした疑問に総司の口元は笑う。
「君を入部させたのは、間違いだったよ」
途端、ナマエの表情が酷く傷付いたものに変わった。
「なんで、そんな事・・っ」
言うのか、ナマエには分からなかった。それが言葉にならずにナマエの胸の中で騒ついた。
「!」
そして腕を引かれ、乱暴にベッドに投げ捨てられた。その衝撃に目を閉じて、目を開けた時には彼が覆い被さっていた。
「せん、ぱっ・・!」
そして半ば引き千切る様にナマエの服が脱がされて行く。
「っなんで、」
「うるさいな」
「んっ・・!」
抵抗しながらそう呟くナマエの輪郭を掴んで唇を押し当てる。直ぐに舌が入って来てナマエはギュッと目を閉じる。
「ん、・・ふ・・っ!」
既に着ていた物は捲れ上がり、履いていた物のボタンは外された。口付けをしながらも動き続ける腕にナマエは必死に力を入れた。
だがそんな抵抗が今の総司に通用するはずも無くナマエの服は次々と脱がされていった。
「やめ、て・・っ」
逃れようと身体を反転させる。だが総司はそんなナマエの肩を掴んで、再びベッドへ押し付けた。
浴びるほどの口付けが繰り返され、総司の手が腹部から下へと降りて行く。
「んんっ!」
その刺激にナマエは思わず総司の服をギュッと握った。
「や、・・やめっ、!」
そして総司が上半身だけ起き上がり自分の服を脱ぎ捨てる。そんな総司の腕に引かれナマエはうつ伏せで肘と膝を立てた。
その上に総司が重なって肌と肌が重なる。
「っ!」
首元に痛みが走ってナマエは顔を歪める。総司はチクリチクリと其処に後を残し指はナマエを責め立てた。
絶え間無くナマエの声が漏れる。ナマエは混乱と悲しさと快楽に涙を流した。
「せんぱっ・・!」
「・・っ」
喘ぐ声の合間に聞こえた自分を呼ぶ声に、総司は思わず顔を歪めた。
「!」
そしてナマエが下半身に異物感を感じた、その時だった。
「っ!?」
「・・っ」
足元から頭の先までを、激痛が走った。
「や、痛・・っ!」
ナマエの顔が痛みに歪む。それすら掻き消す様に総司は身体を打ち付け続けた。
開けたままのカーテンから見えた月が、彼を嘲笑っていた。