「総司、」
「なーに、はじめくん」

部活中、二人は打ち合う一人の姿を見つめていた。

「俺は、彼女に何処かで会った事があるか」

ふと斎藤が漏らした疑問に、総司は僅かにその纏った雰囲気を変えた。

「・・気のせいじゃない」
「そうか」

そう言いつつもその打ち込む姿にのめり込む様に見つめる斎藤を、総司は静かに横目で見つめていた。





「お疲れ様」

部活終わり、総司はそう言ってナマエに飲み物を手渡す。ナマエはタオルで流した汗を拭きながら、そんな制服姿のまま汗ひとつかいていない総司に眉をしかめる。

「・・どうも」

言いたい事はあったが、それを飲み込んでナマエはそれを受け取る。

「あー、またナマエから一本も取れなかったー」

嘆く様に言いながら平助が二人に近付いて来る。

「平助は動きが読み易い」
「えーそうかなー」
「平助は猪突猛進派だもんね」

総司とナマエ二人にそう言われて、平助はちぇ、と小さく不満を漏らす。

「ナマエの腕は確かだ。俺とて一本取るのは難しい」

そんな三人の元にそう言って斎藤が歩み寄る。

「斎藤先輩には勝てません」
「謙遜するな、今日辛うじて勝てているにすぎない」

明日はどうなるか分からないと、斎藤は言う。

「頑張ります」

そう言って僅かに笑うナマエに斎藤は微笑む。

「ナマエ、」
「?」

何かを言おうとして、それでも少しハッとした様に斎藤は自分の口を押さえた。そんな斎藤にナマエは首を傾げる。

「・・と、呼んでもいいだろうか」
「はい、皆もそう呼びます」

同じ苗字がいますから、とナマエは総司を見る。それに斎藤はそうか、とホッとした様に小さく呟いて押さえていた手を離した。

「片付けを手伝ってもらえるか」
「はい、!」

斎藤の言葉に足を踏み出そうとすれば、総司の腕がそれを許さなかった。

「ナマエちゃん今日は疲れたみたいだから、また今度にしてもらえるかな」
「え、私は」
「代わりに平助が手伝うってさ」

そう言って総司は荒々しく平助の背中を押した。

「え、俺!?」
「そうか、そうとは知らずに済まない」

ゆっくり休んでくれ、と言う斎藤にナマエは仕方なく頷く。

「片付けなんて面倒くせーよ」
「うるさいな、君一年でしょ」

ほら、働きなよ。と言う総司に平助は「ナマエも一年じゃん!」と不満を叫んでいた。だが総司と総司に引きずられる様に二人に背を向けたナマエはそのまま道場を後にする。

「私も片付けを」

更衣室に着く間際、ナマエは「やっぱり」とその身を翻す。

「!」

だが腕を掴まれて、やはりその足は前に進まない。振り返れば僅かに俯く総司がいる。その表情は見えずに、ナマエは疑問を覚える。

「先輩・・?」

そう呼んでそっと近付いた。そして顔を覗き込もうとした途端、その手を引かれた。

「・・行かないでよ」

囁かれた言葉とすがる様な声に、ナマエは驚く。その腕に抱き留められて、表情は見えない。だけど、彼が何かに苦しんでいる様な気がした。

「!」

無言で背中に回された手に、今度は総司が驚いた。それは分かった、とそっと言われている様で、総司はその腕に力を込めた。

「ありがとう」

溢れた言葉に、ナマエは静かに微笑んだ。