ナマエが総司の元へ来てから数日が経った。
それはそれは穏やかな日々で、日が落ちかけた頃合いを見て二人で外へ出た。
羅刹の二人には太陽の光は毒以外の何物でもない。それでも少しでもそんな時間を過ごしたくて、店が開いてるギリギリの時間に出掛けていた。
「ナマエ、歩きながら食べるなんてお行儀悪いよ」
金平糖を片手に持って歩くナマエに総司はため息を吐く。だが当の本人はそんな言葉を聞く訳もなく
「次あそこ」
京の町ほど賑わってる訳ではないが、小さな商店街に目移りしながら歩いて行く。
そんなナマエに総司は はいはい、と袖を引かれて着いて行く。
「これなんだろ」
興味深々に商品を眺めるナマエの横顔を総司は微笑ましく見つめた。
思えば、こんな風に二人で歩いたのはここに来て初めてだった。
並んで歩いたのは、いつも羽織を着て辺りを見回しながらだったから。怪しい奴がいないか、真面目なナマエは巡察中でも気を抜かない。
だけど目の前の彼女はどうだろう。何でもない在り来たりな物でも興味を持つ。いや、今までそんな機会も時間も彼女にはなかった。
唯一あったとすれば、千鶴と行く甘味屋くらいか。それもナマエが新選組に来て初めて知ったものの一つだったのだろう、と総司は思う。
「・・・」
その店の一角に髪留めが置いてある。その一点を見つめているナマエの視線に合う様に総司も屈んだ。
「なに、なんか欲しい物でもあったの」
「・・これ」
そう言って指差したのは白と翡翠色の髪留め様の紐。紐の先に小さな金色の飾りが付いている。
「総司の瞳と同じ色」
「!」
間近で見たナマエの嬉しそうな顔に総司は思わず片手で顔を覆った。
「総司?」
「・・はぁ、」
心臓に悪い、なんてため息を吐いて、それを持って店主に渡す。
「おじさん、これちょうだい」
会計を終えてどうも、と総司がナマエの元へ帰って来る。その一連の流れをナマエは呆然と見ていた。
「ほら、横向いて」
「?」
ナマエは首を傾げながらも総司に言われた通り横を向く。すると総司がナマエの髪を耳の下で一つに束ねた。
「うん、可愛い」
「・・・」
綺麗に束ねられた髪に付けられた先ほど話していた髪飾り。それが流れた髪と一緒にナマエの肩に流れていた。
「これでお揃いだね」
「!」
フッと笑った総司にナマエは驚いて、そして満面の笑みを見せた。
「ありがとう」
「どう致しまして」
そんなやり取りをして、二人で店を出た。
その帰り道、橋の途中でナマエが足を止めた。見つめた先にはもう半分身を隠した夕日。
「綺麗だね」
「・・うん」
何かを察知して総司がそう呟く。それにナマエは静かに呟いた。
「今度はちゃんといるでしょ」
「!」
ギュッと手を繋いでそう言えば、ナマエは僅かに瞳に涙を溜めて笑った。
死の間際に見た綺麗な空を見た時は独りだった。でも今は違う。この感情を共有してくれる大切な人が横にいる。それがナマエの胸をギュッと締め付けた。
「新選組の局長が捕まったって?」
ふと聞こえた町人の会話に、二人は僅かに肩を揺らした。
「錦の御旗が東寺に掲げられたらしいからね」
それは新選組が賊軍、追われる身になった事を意味していた。
二人は夕日を見据えたままピクリとも動かない。
「恐らく斬首だろうな」
「そりゃそうだろう、なんせ新選組は」
そう言って町人たちは去って行く。
総司とナマエはどちらも口を開かず、ただ互いの手をギュッと握り締めていた。