後日、総司は意識は取り戻したものの、怪我の経過が良くない事もあり療養の為別の場所へ移送される事になった。
皆が見送る中、ナマエは一人建物の影からそれを見つめていた。
「あれ、ナマエちゃんは」
「ナマエならさっきまでここに」
出発の時、皆がナマエの姿を探すも見つけられない。
「やっぱり、嫌われちゃったかな」
僅かな総司の呟きを土方が聞いていた。
「あいつは、自分がお前を羅刹にしたと思ってる」
「・・本当、馬鹿だよ君は」
微かに見えた影に、総司は微笑む。それに気付いたナマエはギュッと袴を握った。
「そう思うならさっさと治して弁解しに戻って来い」
「相変わらず人使い荒いな、土方さんは」
そんな土方に総司は困った笑顔を見せた。そして再びその微かな影を見つめる。
「・・でもやっぱり、そんな君が好きだよ」
これは君のせいなんかじゃない、だからそんな顔しないで欲しいと心で呟く。どうか泣かないで、と。
「さよなら、ナマエちゃん」
笑顔で小さく手を振る総司。ナマエは駆け出しそうな自分を律するのに精一杯だった。
彼の前に出る資格なんてない。そう思っていたから。護れなかった、彼を傷付けた敵を殺す事も出来なかった。
こんな自分を彼は嫌いになるだろうか。いや、意地悪だし、子供だし、おまけに嫌味ばっかり。
だけど、とっても優しい人。今だって誰も見つけられない私を見つけて、手を振ってる。
でも、そんな優しさが今は痛かった。苦しくて仕方なかった。
土方に同行する話しを持ち掛けられた。だけど断った。自分が行っても、何も出来ないと思ったから。
自分に出来る事、それは人を斬る事。それだけ。
「私と貴方は同じだったんだね」
なら私は貴方の分までこの地で、この新選組の剣になる。それが私に出来る唯一の事だから。
「だから今はゆっくり休んで」
貴方の護りたいものを私が護るから。
「さよなら、総司」
ここに貴方が帰ってくる事を願って私は戦う。
例えその時、私がいなかったとしても。