「まぁ、この前に比べたら全然だね」

部屋の藩士を一掃して一息つく。そんな総司の言葉に確かに、とナマエは思う。

「にしても君、こういう時はよくしゃべるよね」
「気のせい」

ナマエの返しに総司は ほら、と呟く。

「まぁいいけど」

返り血塗れになった顔を袖で拭う。

「はじめくんと平助も気になるし行こうか」

そう言って出口へと向かう。それに小さく頷いてナマエも後に続いた。

「っ!」
「え?」

だが後ろで大きな物音がして、総司は驚きながら振り返る。

「ナマエちゃん、君なに遊んでるの?」

仕事中だよ、と総司は床にうつ伏せになっているナマエに口角を上げながら呟く。

「聞いてるのかな」

顔を上げないナマエの前にしゃがみ込んで、茶化す様に突っつく。

「う・・」
「ふ、あはは!」

顔を上げたナマエの赤い鼻を見て、総司は笑い出す。

「本当、可愛いなぁもう」

立ち上がろうとしないナマエを抱えて起き上がらせる。

「さっきまで平気だったのにどうして転ぶのかな」
「袴気分だった」

つまり、着物を着てるのを忘れていた訳で、再び総司が笑い出す。

「脱ぎたい」
「ちゃんと僕が脱がしてあげるよ」

これが終わったらね、と総司が耳元でそう囁けば、ナマエは総司を押し退けた。

「・・仕事中」
「君がその気にさせたんでしょ」

なんの事だと首を傾げるナマエに総司はフッと笑う。

「!」
「さっさと終わらせようよ」

未だ赤い鼻に口づけをして、総司はナマエの手を引いた。

「ちゃんと手、繋いでてよね。お姫様」

転ばない様に、そう言って笑う総司にナマエは思わず視線を逸らす。

「もう、転ばない」

そんなナマエを見て、総司はやっぱり笑った。

「本当、君って」
「!」

そこまで言って総司が咳き込む。

「ゴホッ!ゴホッ!」
「組長!」

苦しそうに胸を押さえる総司の背中をナマエは慌ててさすった。

「っ、大丈夫、今回のは軽いから」

そう言って総司はまた歩き出そうとする。

「・・どうしたの」

だがその手を掴んだままナマエは一歩も動こうとはしない。

「ここから先は一人で行く」
「さっき転んだ子がなに言って」

ナマエはそう言ってすぐ自分の帯に手を掛けた。

「なに、してるのかな」

ここは部屋でもない、廊下のど真ん中。そこで帯を外そうとするナマエの手を総司は声を低くして掴んだ。

「これじゃ戦えない」
「だから君は」
「貴方も、戦えない」
「!」

ナマエの言葉に総司はナマエの手を無理やり引いて一つの部屋へと入った。

「・・僕は、まだ戦える」

暗い部屋の真ん中で、ナマエの肩を掴んだまま総司はそう呟く。

「そうかも知れない、だけど今日はもう」
「・・っ」

ナマエの言葉を遮って、噛み付く様な口付けをした。

「んっ・・!」
「煩いんだよ、皆して」

荒々しくぶつけられる想いに、ナマエの髪留めがカラン、と床に落ちる。

突き放そうと腕を伸ばせば、重力に負けて流れた髪を鷲掴みにして唇を寄せる。その痛みにナマエはギュッと目を閉じた。

「僕は斬ることしか出来ない剣だ、君の事だって傷付ける事しか出来ない」
「っ!」

掴んだ髪を引かれて、ナマエの視線は上を向く。露わになった首筋を噛み付かれて、ナマエは小さく声を漏らした。

「ほら、何か言いなよ」

じゃないと、そう言って総司は帯に手を掛けた。

「今この場で、僕は君を斬り殺すかも知れない」
「ぁ・・っ!」

素肌に少し冷たい総司の手と、熱を帯びた唇が触れて思わず声が出た。

「僕は、君が嫌いだよ」

そう言って総司はナマエの肌に口付けていく。

「だって、僕をこんな気持ちにさせる」

苦しくて切なくて、他でもない君の口からそんな事聞きたくない。

「僕を苦しめる、君が悪いんだから」

その声は今にも泣き出しそうで、ナマエはギュッと胸を締め付けられる。

「組、長・・っ」
「・・っ」

名前を呼ばれて総司は掴んでいた髪を静かに離した。

「・・ごめんっ」

そしてナマエの肌に顔を埋めながら、そんな声が聞こえた。

「・・大丈夫」
「!」

それでもナマエはそう言って総司の頭を抱いた。

「・・っ」

一雫の涙が、ナマエの身体を伝って、ナマエは総司を抱えた腕に力を込める。

「私は、貴方が好きだよ」

総司が顔を上げれば、優しく微笑むナマエの顔があった。

「・・本当、君はずるいよ」

涙の後をナマエが優しく撫でる。その心地よさに目を閉じれば、また涙が頬を伝った。

「嫌いなんて、嘘だ・・」
「うん、」
「僕は・・まだ戦える」

その言葉に、ナマエは総司をギュッと抱きしめた。

「分かってる」

苦しげに、自分に言い聞かせる様に呟く総司が切なくて仕方なかった。