「お前は」
「!」
声を掛けられてナマエは振り返り、その人物を見て目を見開いた。
「風間・・、!」
「やめておけ」
咄嗟に刀を抜こうとするナマエに風間は淡々とそう告げる。
「まさか団子を持ったまま戦うつもりか」
「・・・」
ナマエはバツの悪そうに視線を逸らす。片手にはお土産用の団子。そして反対の手には今食べようと思った包まれていない団子があった。
そう、二人がいるのは京で有名な団子屋。そこで思わぬ相手と鉢合わせをした。
「俺とてこの様な場所で抜く気はない」
「そう」
あまり信用は出来なかったがまぁいい、と思い店先の椅子に腰を掛けた。
「・・なんで隣に」
「ふん、ここしか空きがなかっただけだ」
その言葉にナマエは辺りを見回す。確かに空いてる訳ではないがそこまで混んでいる訳でもない。
風間の考えが分からず、だが興味もなくそのまま団子を口に運んだ。
「・・なぜ」
ふと風間が団子を片手に問い掛ける。それにナマエは首を傾げて見つめた。
「なぜあの様な場所にいた」
それが聞きたかったのか、とナマエは思う。思えば散歩だと言って屯所に侵入して来た時もそうだ。
よくあの様な場所で生き永らえたな、と彼は言っていた。
「別に、私を拾った男があそこにいた」
ただそれだけだと、ナマエは言う。
「だがお前の腕があればあの様な場所を出る事も出来ただろう」
風間の言葉にナマエは確かに、と妙に納得してしまった。でもすぐ自嘲気味に笑った。
「出たって、行くところなんてなかった」
「・・そうか」
ナマエの言葉に風間は小さく言葉を返す。
「あの場所は薩長のクズ共を集めた様な場所だった。薩摩が人手を欲しがった為に出向いたが話しにならなかった」
「でも私の事を話した」
だからこそあの夜あれだけの人数が待ち構えていた、とナマエは推測していた。
「ああ、余程のクズだったのでな、言ってやった」
風間の言葉をナマエは黙って聞いていた。
「貴様らの手に余る男だ、」
「!」
「腕はこの人数束にしても話しにならん上に貴様らとは不相応だ、と」
風間の言葉にナマエは思わず目を見開いた。
「なんで」
そんな事を話すのか、それは明らかに挑発の類で、オマケにこいつは知っていた、ナマエが女だと言うことを。
「低脳そうだったからな。お前が女だと言う事も気付いていなかったのだろう」
「そう、だけど」
ナマエは反応に困った。爪先から髪の先まで敵だと思っていた相手が自分を持ち上げているのだから仕方がない。
「お前が攻めに行って女だとバラした時のあいつらの顔を、お前の為に取っておいてやったに過ぎん」
勘違いをするな、と風間は念を押す。
「おかげで組長と三十人近く相手にする羽目になったけど」
ナマエの言葉に風間はフッと笑う。
「だが貴様らは生き、奴らは死んだ」
そんなものだ、と彼は立ち上がる。
「くれてやる」
「!」
それは風間がずっと手に持っていた団子で、買った時のままでナマエに手渡された。
「なんで、」
「貴様も早く戻る事だな、自分の帰る場所へ」
「!」
風間はそうフッと笑って京の町に消えて行った。
「・・・」
ナマエは受け取った手付かずの団子を見つめて呟く。
「これしか買ってなかったのに」
つまり、ナマエと話すが為だけにこの一本を買った、と言う事になる。
「・・あいつもよく分からない」
団子を一口含んで呟く。
「帰る、場所」
もしや心配してくれてた、という事か。
「まさか、ね」
消えた相手に答えを聞く事も出来ず、ナマエは屯所への帰路についた。