自室に戻り着替えの支度をする。今は総司が風呂に入っているだろうからもう少ししたら自分も向かおうと腰を下ろす。

全身汗をかいて気持ちが悪い。纏めていた髪を解いて乱暴に掻きむしる。肩より長い髪を横に纏めて腕を捲った。

「・・っ」

松本に貼ってもらった湿布を剥がす。べりっと音がして僅かに顔を歪めた。そこは折れていないとは言え、広範囲に渡って青紫色に変化していた。

「あーあ、痛そう」
「!」

許可もなく開かれたその襖にナマエは顔を上げた。そこには髪が濡れ、それを手拭いで拭きながら立つ総司の姿があった。

「勝手に」

入って来るな、そんな言葉は痛みによって発する事は出来なかった。

「ふーん、やっぱり痛そうだね」

ナマエの腫れている腕を突いて、あは、と笑う総司を睨み付ける。

「性格悪過ぎ」
「だって君、皆の前でしゃべろうとしたでしょ」

その罰だよ、と総司は変わらず笑う。その言葉にナマエは思わず目を逸らした。

確かに皆に声を掛けられた時、思わず言葉を発しようとした。それは今となれば何故だか分からない。

もしかすると心のどこかで、彼らになら声を聞かれても大丈夫なのではないか、と思ったからかも知れない。ナマエは安易な自分の考えに思わず顔を顰めた。

「!」
「君の、匂いがする」

ふと、総司がナマエの首筋に鼻を付ける。それにナマエは反応して首筋を抑えた。

「・・っ変態」
「ひどいな、いい匂いだって言ってるのに」

近い距離に思わず後ずさる。それを追うように総司は前へと進んだ。

「近付くなっ、」
「普通部下は上司に命令しないでしょ」

悪い子だな、と総司は楽しそうに笑う。

「ふざけ、!」

こつん、と背中に壁がぶつかった。

「あれ、逃げないの?」

わざとらしく聞く総司にナマエは腕を伸ばす。

「・・っ!」
「本当馬鹿だよね、君って」

痛む腕を容赦なく掴まれて力が抜ける。

「!」

瞬間、ナマエは総司の腕の中にいた。総司の肩に自分の額がコツンと当たって、顔を上げようとしたがその手のひらに頭を抑えられ、それは叶わなかった。

「・・ごめん」

そして上から降ってきた言葉にナマエは僅かに目を見開いた。

「護ってあげられなくて、ごめん」

いつもとは違う、真剣で辛辣な言葉。彼に似合わないその言葉たちにナマエは思わず総司の服をギュッと握った。

「・・っ私、こそ」

悔しくて思わず歯を食いしばった。

「あれ、泣いてるの?」
「!」

ふふ、と笑って茶化す様な総司の声に勢い良く顔を上げた。

「泣いてなんか−−」

いない、それは言葉にはならなかった。

「んっ・・!」

頭を支えていた手に引き寄せられて唇が重なる。またしても突然の口づけにナマエは身を捩る。

それでも頭と腕を掴まれて、身動き一つ取れずに口づけは繰り返された。

「君の匂い、僕に移してよ」
「なっ!」

総司の言葉に自分でも顔が赤くなるのを感じた。

「可愛いなぁ、本当」

フッと笑う総司の顔が目の前にあって思考が止まる。もう、どうとでもなれ、と。

「あれ、抵抗しないの?」

それもまた可愛いけど、なんて呟く総司にナマエは頭が痛くなる。

(ならどうしろってのよ)

ナマエの思考を気にもとめず総司は再び口づけをする。何度も何度も繰り返され、いつしか部屋には唇が重なる音とナマエの息遣いが静かに響いていた。

「・・まだするの?」

ふと唇を僅かに離して総司がそう問い掛ける。

「私が、聞きたい・・っ」

肩で息をするナマエは目を細めてそう呟く。

「ダメだよ、そんな目で見ちゃ」
「ひゃっ・・」

音を立ててナマエの首筋に総司は顔を埋める。その刺激にナマエは思わず肩を揺らした。

「君って、女の子みたいな声出すよね」
「!?」

わざとらしく言った総司の言葉にナマエは思わず口を塞いだ。

「お、風呂に・・行く!」

ガタ!っと立ち上がってナマエは足早に部屋を後にする。そんな背中を見送って、総司は「あーあ、」と声を漏らした。

「もっと、聞きたかったのにな」

上機嫌に総司はそう言って口元を歪める。何よりナマエが無意識に自分を"私"と言っていたのを総司は聞き逃さなかった。

「やっぱり、可愛いな」

ナマエの心とは裏腹に、総司は静かにそう呟いた。