05 優しい父


「これは・・・」

ここはどれ位地下なのだろう?それすら分からず、ガムシャラに宙に浮かんだ1人の女の子を追いかけてここまで来た。

するとどうしたものだろう。その追い掛けて来た筈の女の子が、赤い液体の中にいる。

一騎は呆然とする。彼女は一体・・・そんな疑問は勿論あった。

だがそんな事よりも、彼女からつたわるこの感じは何なのか。目を覚ます訳でも、勿論言葉を発する訳でもない。なのに彼女の意志が一騎の中に流れてくる様な、不思議な感覚だった。

「!」

そんな時、アルヴィス内に警報が鳴り響く。それを聞いた一騎は、後ろ髪を引かれる気分になりながらもその場を後にした。

「一騎、スクランブルだ」

エレベーターで上昇中、モニター越しに総士は険しい表情で一騎にそう告げた。

それが何を示すのか理解した一騎もまた、表情を硬くし、ファフナーの元へ急いだ。

同時刻、誰の報告を受けずとも敵の襲来を感知してる者がいた、ナマエだ。

ナマエは失いそうな意識を辛うじて繋ぎとめた状態で、壁を這いながらある場所へと向かっていた。

「きっと、誰も教えてくれない」

何故自分がフェストゥムが襲来すると頭痛に襲われるのか、きっと父、史彦は知っているのだろ。ナマエは直感的にそう感じていた。

しかし、優しい父の事だ。きっと本当の事は教えてくれない。この間はあんな態度を取ったが、ナマエはあれが父の全てではない事は分かっていた。

でも、このやり場のないもどかしさや不安を身近である史彦にぶつけてしまった。

その点については反省している。そして、これからしようとしてる事に対しても、きっと史彦は怒るだろうと、ナマエは思った。

「ごめんね、お父さん」

叱られた事なんてない。だから父がどんな風に怒るのか、なんて想像したら少し笑ってしまった。

優しい父の怒った顔が、想像したはいいものの、思い浮かばなかったのだ。

この先を行けば、どうなるか分からない。
怒られる所では済まないかも知れない。

でも、行かずにはいられなかった。
知らないままで、いられなかった。



だが知らない事による幸せがあるなんて

この時のナマエには、想像も出来なかったんだ。












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