83 行ってきます


ついに総士たちが帰って来た。

レーダーに探知された輸送機に、一騎、ナマエ、史彦、千鶴、そして織姫の5人が出迎えへと足を運んだ。

輸送機が開いて真矢と総士が出てくる。それを見た千鶴は真矢へと駆け寄って抱き締めた。

そして後から出て来た総士が、外で待つ一騎とナマエに気付き、目覚めたんだな、と安堵の表情を見せた。

「一騎、帰って来たな・・ナマエも」
「ああ、お前の選ぶ道に俺も行くよ」

一騎の言葉に総士はフッと笑う。

「・・にしてもお前たち、堂々と手を、!」

そこで総士はナマエの異変に気付いた。

「一騎、もしかしてナマエは・・」
「おかえり、総士」
「!」

僅かに手が震えた。光のない瞳に。それでも彼女から出た言葉に総士は一騎を見つめた。

「完全に消えた訳じゃない、ただそれだけだ」
「そう、か」

そう言ってナマエに目を向ける。

「ただいま、ナマエ」
「うん」

ただ無表情にそう言うナマエに、総士は僅かに眉を寄せた。

(やはりあの時、ナマエは最期の同化を迎えていたのか)

ナマエの機体が金色に光り消えていったあの時、それは搭乗者にも同じ事が起こってると言う事が考えられた。

そうでなければいいと思っていたが、事はそんなに甘くはないと総士はギュッと拳を握った。

そしてそこで広登と暉の死が双方に伝えられ、喫茶楽園にてカノンの死が告げられた。

集まった同級生達の中で、真矢はカノンの遺した翔子の帽子を胸に抱いて涙を流す。

「ただいま、カノン」

その様子をナマエはじっと見つめていた。

「泣かないで、真矢」
「・・っナマエ」

ナマエはそう言って一騎の手を離し、代わりに真矢の手を握った。

「やっぱり、悲しいんだね」

手から伝わる感情にナマエは僅かに眉を寄せた。

「真矢が悲しいと、私も悲しい」
「・・っうん」

淡々と言うナマエだが、真矢はナマエの手を握り返して言った。ありがとう、と。

そんなナマエの姿に総士は一騎に鋭く目配せをする。それを感じて一騎は首を横に振った。

(危害はない、か)

総士も当初の史彦達と同じ心配をしていた。だが一騎は大丈夫だと告げる。それに一先ずホッとしてナマエを観察した。

(本当に、心が消えてしまうなんてな)

以前彼女はそれが嫌だと言って泣いていた。存在を大事にしろ、と言ったが、いざ失った心を戻すとなると何から手をつけたらいいのかすら不明だ、と総士は思う。

(自分の言葉が裏目に出るとはな)

そう考えて総士は頭を抱えた。

「明日、葬儀の後にやるわよ」

そして咲良が口を開いた。何を、と首を傾げる皆に咲良は宣言する。

「うちらの、成人式よ」

そして次の日、それは行われた。

アルヴィスの制服に身を包み、史彦から1人1人アルヴィスへのアクセス権限が与えられる。

史彦は告げる。共にいた者を尊み、共にいる者と守り合い、苦難の時代を生き抜いて欲しい、と。

そしてその3日後、遂に海からは人類軍、そして空からはアルタイルが近付いていた。

ファフナーパイロットは全機、輸送機にて発進を命じられる。行く先は海神島。そこが戦場となる。

そして夜、出発の時間にパイロットはシナジェティックスーツに着替え輸送機へと乗り込む。

「お父さん、行ってきます」
「・・ああ、必ず帰って来なさい」

ナマエの言葉に史彦はそう告げる。

「!」

ふと、ナマエがギュッと史彦の手を握った。

「ずっと会いたかったよ、お父さん」
「ナマエ・・」

それはきっと、長い長い旅をしていた時の"彼女"の想い。

「私も、ずっとお前たちに会いたかった・・っ」

史彦の言葉を聞いて、ナマエは史彦の手を離し、一騎の後を追って輸送機へ乗り込んだ。

「・・っ」
「真壁司令・・」

顔を覆う史彦に、千鶴は声を掛けた。

「信じましょう、子供たちを。貴方がいつも私に言ってくれた言葉です」
「・・そうですね」

千鶴の言葉に史彦は顔を上げ、彼らを見送った。

そして明朝、最期の戦いが始まる。





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