82 救い
「何してるんだ」
島の一角。そこは皆の想いが眠る場所。
「分からない」
キールブロック、ウルドの泉に浮かぶゴルディアス結晶。ナマエは1人その場で佇んでいた。
「でも感じる、平和への願いを」
無表情で彼女はそう言う。一騎はそんなナマエの横に立って同じ様にゴルディアス結晶を見つめた。
「!」
ふとナマエから手を握った。一騎は少し驚きながらも優しくその手を握り返した。
「咲良を悲しませてしまった」
「ナマエ・・」
それは昨日の喫茶楽園での事だった。雨の降る中探し出したナマエと皆が待つ楽園へと向かった。
そして扉を開け、ナマエを見つけた瞬間咲良は泣き出してしまった。
「あれは悲しかったからじゃない」
一騎の言葉にナマエは一騎を見つめる。そんなナマエに一騎はフッと笑った。
「嬉しかったんだ、ナマエが帰って来た事が」
「・・そっか」
そう一言だけ呟いてナマエはまた結晶を見上げる。
「なら良かった」
ギュッと僅かにナマエの手に力が入った。手からは少しの安堵の感情が流れてくる。
「俺たちは世界の傷を塞ぎ、存在と痛みを調和する者、らしい」
それはここでカノンだった存在に言われた言葉だ。
「俺たちは何をしたらいいんだろうな」
世界の為、平和の為に。命の使い道を探して戻って来た。でも、ちっぽけな僕らに何が出来るのか、と一騎は思う。
「この島の祝福は俺たちだとカノンは言った。責任重大だな」
「・・それでも1人じゃない」
その言葉に一騎はナマエの横顔を見つめた。
「背負ったのは私も同じ」
この時点で彼らの時間は止まった。最期の祝福を受けるその時まで。
「これからきっと、もっと多くのものを背負う事になる」
戦いだけでなく、時の流れが皆を襲う。それを見届ける覚悟はあるのか、とナマエは問う。
「無理かもな」
一騎はそう言って笑う。
「でも1人じゃないんだろ」
「・・そうだよ」
「なら何とかなるさ」
その言葉に、ナマエも笑った。
「初めて笑ったな」
「気のせいでしょ」
そっか、と言う一騎にそうだ、と言うナマエ。
「ナマエ、」
ふと一騎が名前を呼んだ。
「!」
「今はこれで我慢するよ」
音を立てて触れられた頬に、ナマエは目を見開いた。
「私たちは双子のはずだけど」
「もういいよ、その問題は」
「何言って、」
一騎はナマエの手を引いて出口へと向かう。
「どこへ行くの」
ナマエの質問に一騎は即答する。
「お前となら、どこだって構わないよ」
「・・答えになってない」
なら、一騎はそう言ってナマエを見つめる。
「夕飯の買い物、これでいいだろ」
「・・仕方ないな」
ナマエの返事に一騎は微笑む。やはり彼女の表情が動く事はない。だけど、心はちゃんと動いてる。
それが、今の一騎の唯一の救いだった。
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