79 循環
そして遂に竜宮島は海神島を発見した。
半ば半信半疑であったその存在に、史彦はナレインと固く握手を交わした。
そして敵の襲来を想定して全機のファフナーと輸送機が発信した。
「やはり、上陸後を狙ったか」
全機が辿り着いた時、襲来の鐘が鳴る。そして竜宮島では重要な選択が行われていた。
「俺も、島と1つになるのか」
キールブロック、ウルドの泉にその姿はあった。大きく花咲かせたゴルディアス結晶を眺めて、一騎はそう問い掛ける。
「それは最後の祝福だ、真壁一騎」
そこには翔子だった存在とカノンだった存在の姿。彼女は言う、今我々とお前の間で調和の可能性が開かれた、と。
「お前が世界を祝福するなら、我々は生と死の循環を超える命を与えよう」
翔子の手には1輪の花が存在していた。
「俺を、母さんみたいにするのか」
一騎の問いにカノンは答える。心を委ねるかは、お前次第だと。
「昔、自分なんかいなくなれば良いと思ってファフナーに乗った」
静かに語り始める一騎の言葉を、2人は静かに聞いていた。
「なのに、自分がいる理由を探してずっと乗り続けた。ナマエと、繋がっていたくて」
そう言って一騎は目を伏せる。
「ナマエ、は・・消えたのか」
ふと、気を失う前の彼女を思い出す。金色に光り、最後の言葉を放つ彼女を。
「彼女は既に保たれ、眠っている」
「!、生きているのか」
カノンの言葉に一騎は顔を上げる。
「お前たちはいつしか2人で1つの存在になった。お前が望めば彼女は目覚め、望まなければ消えて行く」
「2人で、1つ・・」
カノンの言葉を繰り返して一騎は翔子の手の中の花を受け取った。
「選ぶよ、俺も。俺の命にまだ使い道があるなら、それを知る為に生きたいーーナマエと一緒に」
その答えに、2人が僅かに微笑んだ様な気がした。
「お前たちは世界の傷を塞ぎ、存在と痛みを調和させる者。我々はお前たちによって世界を祝福する」
その言葉に、一騎は微笑んだ。
「これを」
「これは・・」
ゴルディアス結晶から降り注ぐ欠片が一騎の手のひらに降り注ぐ。
−− 一騎、
「!」
欠片に触れた瞬間、声が聞こえた。
「それは彼女の心の欠片、存在を保とうとしている間に散り散りになってしまった」
「そうか、」
一騎はそれを胸でギュッと握りしめた。
「今、行くからな」
そして遂に、地平線から一騎が戻る。失われた右手と瞳が金色に輝いていた。
シナジェティックスーツに着替えザインの元へと向かう。そしてそれを目の前にして一騎は右手を翳した。
「ここに、いたのか」
眉を下げて一騎は言う。中から確かにナマエの存在を感じた。
そして赤い結晶体がザインを包んでは音を立てて崩れて行った。
「待たせてごめんな、ナマエ」
剣司の能力でザインを直し、コックピットへ乗り込む。そこには、座ったまま眠るナマエの姿があった。
「ナマエ、」
頬を包み込んで名前を呼んだ。昔は自分が起こしてもらっていたのに、最近じゃ自分が起こしてばっかりいるな、と一騎は笑う。
「ーーーん、」
「行こう、皆のところへ」
新しい扉は開かれた。もう戻る事は許されない。
だけれど、それでよかった。まだ見ぬ答えを探して歩き出す。
2人並んで。
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