78 欠片


そしてナレイン率いる人類軍、民間人約5000人を収容出来、世界樹であるミールを根付かせる場所として第3アルヴィス海神島の捜索が始まった。

時を同じくしてマークザインの復旧作業が同時進行で行われた。

「お手上げだな、ザインをどうやって出すか検討もつかない」

保はデーターを見て頭を抱えた。

「そうですね、・・待って、これは!」
「どうした?」

容子の手の中のデーターを保は横から覗き込む。その事実に目を見開いた。

「生体反応・・だと!?」
「ああ、彼女ここにいるんだね」

2人が頭の整理をしている最中、1人のコアが現れた。

「来主、操!?」
「早く起きて、たくさーん話しをしようね!」

前のコアはもういないけど、と操は呟く。操の呟きに保と容子は顔を見合わせる。彼の言う彼女、それは

「あ、でも今の君に話しが出来るかな」
「それは、どう言う意味だ」

操の言葉に保は問い掛ける。

「だから、一騎次第って事だよ!」

彼が望まなければ彼女は消える、そう言う運命だ。と操は言う。

「彼女が目覚めなかったら、少し退屈だな」

楽しみにしてたのに、そう言う操の横顔を2人は唖然と見つめていた。

操の発言、そして生体反応があった事を2人は早急に史彦に報告をした。会議室にて千鶴を加えた4人がナマエについて論議する。

「つまり、ナマエはマークザインの中にいる、と」

史彦の言葉に保が頷く。

「信じがたいが間違いないだろう」
「だが一騎をサルベージした際には他に生体反応はなかったはずだ」

保の言葉に史彦は言及する。

「1度消えたものが再生したとしか考えられません」
「一騎くんを調べましたが、今まで常にあった彼らのクロッシングも途絶えていました」

容子の報告に千鶴が付け足す様に告げる。

「恐らくはやはり彼女の何かが途絶えた可能性が高いと思われます」
「何か、とは」
「推測の段階では存在そのもの、または心の消失かと思われます」

千鶴の言葉に、史彦は眉を寄せる。

「クロッシングは繋がりを意味します。彼らの意志だけで繋がっていたそれが途絶えたとなると、そのどちらかだと思います」

そして史彦は話しの重要な部分を切り出した。

「このままナマエが目覚めた場合、どうなるかが問題だ」

操は言った。話しが出来るか?と。それはつまり存在があったとしてもナマエに対話の意志や記憶が消えていれば、彼女はただのフェストゥムに成り下がる訳だ。

そうなれば島の子供達に辛い選択を強いる事になってしまいかねない。問題はそこだった。

「生きている事を素直に喜べないなんて」

会議室を出て、千鶴はそう呟いた。

「こんな日が来なければと願っていました。だが、覚悟していなかった訳ではありません」

千鶴の言葉に史彦は前だけを見てそう言った。もしそうなった時、それが彼女を救う道だと信じるしかない。

「ただいま、お父さん」
「!?」

突然聞こえた声にハッとして振り返った。

「真壁司令?」
「今、ナマエの声が・・」

今にも泣き出しそうな、震えた声だった。

「まさか、そんな事が」
「真壁司令!」
「おい、咲良無茶するなって!」

2人が呆然とする中、咲良の声が廊下に響いた。

「ナマエ、帰って来たんですか!?」
「おい、咲良!」

咲良の足りない言葉を補う様に剣司が話しを始めた。

「メディカルルームにいたんです、そしたら咲良が突然ナマエの声がしたって」
「君も、か」
「じゃあ、真壁司令も!?」

咲良の言葉に史彦は頷く。千鶴と剣司は半ば信じられないといった様に目を瞬かせていた。

「ちなみに君にはなんて」
「"絶交はなしだからね"って・・っ」

言葉を思い出して咲良は思わず手で口元を覆った。

「あの子が前に帰って来た時に、次勝手にいなくなったら絶交だ、って私言ったんです」
「ナマエは伝えたかった、貴女に帰って来たよって」

泣き出す咲良に、突然現れた織姫は言う。

「ナマエは本当に帰って来たのか」
「一騎次第だって聞いたでしょ、貴方たちが会ったのはナマエの心の欠片」
「心の、欠片・・」

例え一騎が望まず消えてしまったとしても、1つの個体がここにあった証を彼女は残したかった。と織姫は告げる。

「喜んでる、島に帰れた事を」

意志はあっても意識はない。言ってしまえば彼女の島に対する強い想いが思念体となって現れたに過ぎない。

「これでハッキリした。今ザインにいる彼女はただの器よ」

蛇が出るか蛇が出るか分からない、と織姫は言う。

「ナマエを消すなら今だよ、史彦」
「な、消すって!?」
「それが1番もしもの時に悲しまなくて済む方法」

織姫は分かっていた。先ほどの会議室の会話を。

「会議を開く必要があるな」
「真壁司令!?」

史彦の返答に咲良と剣司が声を上げる。

「絶対、させない」
「咲良・・?」

俯く咲良に剣司は心配そうな声を上げる。

「あの子が、ナマエが目覚めた時、敵だったら私がナマエを倒します」
「咲良!」

剣司の制止を聞かず、咲良は史彦に声を上げ続けた。

「他の誰にも手出しなんかさせない!相討ちになろうと何しよう、私があの子を・・救ってみせる!」
「・・・」

だから、と言ってまた泣き崩れた咲良を、剣司は肩を抱いて支えた。

「ナマエは、いい友達を持ったな」
「!」

史彦の言葉に2人が顔を上げる。

「ナマエの件は一先ず保留にする。目覚めた時が決断の時だ」
「!、ありがとうござます!」

そうして史彦は2人に背を向ける。

「泣いてもいいんだよ、史彦」
「・・咲良くんは、ナマエを救ってくれると言ってくれた」

これ以上、嬉しい事はない。と史彦は言葉を噛み締めた。

「ねえ、どーしてぼくの所には来ないのー!?」

別の廊下を歩く操と甲洋。操は不満気に声を上げた。

「心は、強い想いのある人にだけ見える」
「えー!僕だって凄く話したいのに!」

そんな操に甲洋は片方だけじゃダメだと告げる。

「それこそ納得いかないよ」

ふん、と頬を膨らませる操。

そして、此処にも心の欠片が1つ。

「・・一騎、」

眠り続ける一騎に機械を通り越して頬に触れた。

「大好きだよ」

そしてそれは蜃気楼の様に消えていった。













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