71 心


そして遂に長い旅の終着地点へ一先ず辿り着こうとしていた。

それと同時に、敵の襲来も待ち構えている事が予測された。それに踏まえ一騎、総士、ナマエの3名が第19キャンプに残る事が決まった。

「本当に、お前も残るのか」
「当たり前でしょ」

ナマエに何か言いたげに問う一騎にナマエはハッキリと言葉を返す。

「絶対、殺してやる」
「・・・」

そう言って手のひらをギュッと握るナマエを一騎と総士は心配そうに見つめる。

そして僅かに握った手の甲に結晶を見る。それに総士は眉を寄せた。

(同化現象、か)

それは感情の高ぶりからか、それとも変性意識から来る身体の同化か、判断がつかなかった。

少なくとも一騎の話しによればナマエの意識変化がファフナーに乗ってない時でも少なからずあるのはさっきの言葉からも間違いなさそうだ、と総士は考える。

「ナマエ、」

3人で廊下を歩く。ふと総士が立ち止まってナマエを呼び止める。それに反応して一騎とナマエも足を止めて総士を振り返った。

「このままファフナーに乗り続けて同化が進んだ場合、君は自分がどうなるのか分かっているのか」
「総士、」

ストレートな質問だった。それに一騎は少し眉を寄せた。だが知らなければならない事だった。

大きな戦いがもう目の前に迫っている。この中の3人の内、誰かが消えてもおかしくない戦いが。

今の状況で彼女は確実にフェストゥムへの道をたどっているだろう。だが現在どの位置にいるのか把握出来ていない。

その自覚症状があるか、また何か知っている事があるかを知っておきたかった。

「正直、分からないの」

ナマエはそう言って手のひらを見つめる。そして過去に突き付けられた言葉を思い返して呟いた。

「でも乙姫ちゃんが言ってた。同化が進めば完全なフェストゥムに戻る。そして最後の同化が始まれば、きっと・・って、」

それは一騎たちが北極へ行くと決まった辺りに母が好きだった丘で聞いた言葉だった。

「私がこの曖昧な形を保っていられたのは操と、操のミールのおかげ。次限界が来れば、私はきっと何かを失う」

それは人の形か、それとも心か、はたまた存在そのものか、それは順番も分からなければどれが起こるかすら分からない。とナマエは呟いた。

「せめて、心だけは消えないでいたいな」

そう言ってナマエは自分の胸に手を当てた。切実に、ただそれだけを願う様に。

「消えないさ」

その言葉に総士は断言する。その余りにもハッキリとした言葉にナマエは首を傾げた。

「人の心はその人の中だけあるものじゃない。その人物に関わった全ての人間がそいつの心を持っている」

だから、そう言って総士は言葉を続けた。

「君の心が無くなったとしても、僕らがかき集めてやるさ」
「そう、し・・っ」

ナマエは総士の言葉に一筋の涙を溢した。

「だが存在が消えれば術はない。大事にしろ」
「うん、ありがと総士・・ありがとうっ」

強く頷くナマエに総士は背を向ける。

「慰めるのは得意じゃない、先行ってる」
「え、総士!?」

そのまま一騎の制止を聞かずに総士はその場から去ってしまった。

「本当、勝手な奴だな」

一騎は呆れたため息をついた。・・いや、気を利かせたんだろう、と一騎は思い直す。

「大丈夫か」
「うん、」

涙をこするナマエに、一騎は声を掛ける。

「大丈夫、私怖くないよ。だって、2人が護ってくれるんでしょ?」
「・・ああ、行こう。一緒に」

戦うな、なんて言わない。これは、2人で望んだ道。2人で歩む道だから。

「一騎は、私を忘れないでいてくれる?」

ナマエの質問に微笑んだ。当然だ、と。

「・・っありがと」

だって彼女を1人にさせるつもりなんて、これっぽっちもない。と一騎は決意を再び胸に刻んだ。


彼らは双子、運命を共にする。







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