70 幸せな夢


「これは、一体どう言う事だ」

朝から総士はご立腹だ。それは目の前でスヤスヤと眠る2人に原因がある。

「ここは戦場だ、2人はザルヴァートルモデルの貴重なパイロットであり狙われるとしたらまずお前たちからだ」

仁王立ちをしたまま2人を見下ろして総士は続けた。

「昼間は暖かいとは言え夜は冷える、増してや野生動物がいる中でお前たちは何故寝れる」
「皆城くん、2人が起きてから話せば・・?」

隣で真矢がまぁまぁと総士を宥める。そんな事お構いなしに総士はふん、と鼻を鳴らした。

「この2人にはまず危機感と言うものを僕が1から叩き込んでやる」
「ほらほら、ご飯食べる?」

4人分の食事を持った真矢がその1つを総士に差し出す。それをすまない、と受け取って封を開けた。

「にしても、本当ラブラブだね」

目の前の光景に真矢はクスクスと笑う。

「全くだ。これでまだ気持ちを伝えてないと言うんだから、!」

そこまで言って総士はハッとした。それに真矢も気付いてお互い目を合わせた。

「「まさか、昨日・・!」」
「・・ん、」

2人の重なった声に一騎が先に目を覚ました。

「あれ、いつの間に寝て」
「おい」
「わあ!」

頭上から降って来た声に一騎は思わず声を上げた。

「ん、んー・・・」

僅かにナマエが唸り声を上げるも、またすぐに寝てしまった。

「お前ら、何やってるんだよ」
「それはこっちのセリフだ、一騎」

総士の何故か仁王立ちでの言葉に一騎は は?と声を漏らした。

「お前たちまさかその体制でいつも寝ていた訳じゃないだろうな」
「え!?あ、ああーそれは、違うに決まってるだろ!」

総士の取り調べに一騎は言葉を濁しながら答えた。

「なら、遂に言ったんだな」
「言った?・・いや、言って・・ない」
「・・・」

一騎の答えに総士だけでなく真矢も仁王立ちして一騎を見下ろした。

「そんな、腕枕とかで寝てるのに?」
「いや、ほら枕ないし・・」
「寝てた時は腰も抱いていたな」
「だって、かけるのないから寒いだろ・・」

一騎の答えに2人は沈黙した。その沈黙が逆に未だ寝転んだままの一騎には辛かった。

「西尾里奈とナマエが話していた時はまさかとは思っていたが」
「ここまでとはねー」

2人は揃って頭を抱えた。

「ん、・・かずき、」
「!」

そしてナマエが寝ぼけて一騎の首に抱き付いてまた寝始める。そんな状況に一騎は思わず頭を抱えた。

「・・邪魔した様だな」
「そうだね、私お腹減っちゃった」
「あ、おい待てって!」

くるりと踵を返す2人に一騎はナマエを起こさない様に掠れた声で2人を呼び止めた。

「ナマエのを残してあとは食べても問題ないだろう」
「ああ、一騎くんきっとお腹いっぱいだもんね」
「いや、総士!遠見!話しを」

そして2人は去って行った。手を伸ばす一騎と未だ眠り続けるナマエを置いて。

「・・本当に置いてかれた」

一騎は宙ぶらりんになった手を額に置いてため息を吐いた。

「なんて言い訳するかな」

そう呟いて眠るナマエに身体を向けた。首に抱きつかれているから表情は見えない。だけど首にかかる僅かな寝息が、全身から伝わる鼓動が心地良くて安らぐ。

「俺はずっと抱き締めてたのか」

腕枕している手が自然とナマエの肩を抱いてる事に今気付いた。

「ナマエ、もう朝だぞ」
「んー、あと5分・・」

顔に掛かる髪を撫でてそう言えばナマエは寝ぼけてそう言った。

それは何でもない島で過ごしていた日々の朝の様で、自然と笑みが零れた。

「あと5分だけだからな」
「ん、かずき・・だいすきっ」
「!」

そして再び規則正しい寝息が聞こえた。

「・・俺も、大好きだよ」

あと、5分だけでいい。俺たちにあの頃の幸せな夢を。一騎はそう願ってナマエをギュッと抱きしめ目を閉じた。

彼女に何度この言葉を告げただろう。でも本当の意味が伝わった事はない。

『時間が限られているからこそ、やらなきゃいけない事なんじゃないか』

総士の言葉が頭に過る。

「あいつに言わせちゃ、いけない言葉だな」

思い出して一騎は苦笑いを溢す。

知っていたはずだ、総士の気持ちを。だが自分の気持ちを表に出さずにこうして背中を押してくれる。

簡単な事じゃないはずだ。自分が逆の立場だったとして、同じ事が出来るかと言われれば答えはNOだ。

以前ナマエが総士の為に傷だらけになりながら料理をしていると聞いた時、やはり黙ってなんかいられなかった。頑張れなんて言えなかった。一騎は総士に改めて感謝した。

「ん・・・」
「おはよう、ナマエ」

そしてナマエがようやく目を覚ます。

「おはよ・・ーーって!」

ナマエは一騎と視線が合った瞬間、その距離に一気に顔を赤くし、跳ね上がる様に起き上がった。

「ご、ごめん!私、寝ぼけて・・!」
「ほら、腹減っただろ」
「え、あ・・うん」

慌てて謝るナマエの言葉を聞かずに、一騎はそう言ってナマエに手を差し出した。

「ご飯食べに行くぞ」
「・・うんっ」

まぁ、自分のがあるかは分からないが、と一騎は心の中で呟いて、2人で皆の元へと歩き出した。









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