68 静けさ


そして多くの犠牲を出しながら、見えない敵を探しながらの旅は続けられた。

「弱肉強食ー!」
「な!」

第13キャンプ、そこはフェストゥムに侵食されていない、世界でも数少ない土地だった。

溝口が陰で動物に銃口を静かに構え、引き金を引こうとした瞬間、舞い上がったナマエに溝口は目を見開いた。

「一撃必殺!」

瞬時に投げられた無数のナイフはそれらを一撃で仕留めた。

「こりゃ、驚いた」

溝口は目の前の光景に開いた口が塞がらなかった。

「いやー大量大量!にしてもいつそんな技覚えたんだ?」
「・・え!?あー、ゴーバインかな?」

ナマエの言葉に流石保だな、と溝口は笑う。

「・・っ」

ナマエは震える自分の両手を見つめた。そこには僅かにニーベルングシステムの跡がある。

広げた手のひらをギュッと握った。誰にも悟られない様に、と。

「ナマエ、」
「・・一騎」

食料調達組から帰って来たナマエに一騎は声をかける。

「どうかしたのか」

少し暗いナマエに一騎は僅か目を細めた。

「私・・」
「おう!一騎!今日はナマエちゃんのおかげで肉だぞー!」
「ナマエのおかげ、て」

溝口の言葉に一騎はナマエを見つめる。僅かに俯き眉をしかめるナマエ。

「そ、そうなんだよ!頑張ったから美味しくしてよね!」
「ナマエ・・」

そう言って笑うナマエに違和感を感じる一騎。それでも今問い詰めるべきじゃないと笑い返した。

「じゃあ、カレーでも作るか」
「!」

一騎の言葉にぱあっと表情を明るくさせた。それに一騎も少し胸を撫で下ろす。

「私も、手伝う!」
「当たり前だろ、」

これは2人の料理なんだから、一騎がそう言えば、ナマエは満面の笑みを見せた。僅かにその瞳に涙を浮かばせながら。

そしてその日の夜、一騎、総士、ナマエ、真矢の4人は小高い丘にて地べたへ座り星を眺めた。

今日与えてもらった全てに感謝しながら。

「生きる限り僕らは何かをゆずってもらっているんだ。水も命も、平和も」

総士の言葉にナマエは人知れず自分の手のひらを見つめギュと握った。

「総士、フェストゥムの世界ってこんな風なのか」

一騎の問いに真矢は表情を硬くする。

「お前がそれを聞くのは初めてだな」

知ってなきゃ勝てない気がする、と言う一騎に、総士は海に浮かぶ地平線に例えて話しをする。

彼独特の言い回しに一騎と真矢黙って星空を眺めていた。

「分かるか?」

話し終えた総士は皆に問う。すると一騎と真矢は揃って首を横に振った。

「私は、何となく分かる気がする」

皆が空を見上げる中、ナマエは膝を抱え俯いていた。

「一部のミールは知りたがってる、この世界を。だから触れたいここに住む人達を」

だからシュリーナガルのミールはナマエを同化しようとした。他でもない、探究心から。

「でも彼らが触れると消えてしまう、だからミールはコアを作った」

知りたい、触れたい、理解したい。それは余りにも無垢で純粋な想い。

勿論全てのフェストゥムにそれが当てはまる訳ではない。でもそれは人間も変わらない。

「なら私たちも彼らに触れなきゃ、彼らの世界は分からない」
「そういう事だ」

ナマエの言葉に総士は頷く。

「さて、そろそろ寝るぞ」

明日に響く、と総士腰を上げる。

「そだね、シャワーも浴びたし、ゆっくり寝れそう」

そう言って真矢も立ち上がって背筋を伸ばした。

「私もう少しここにいるから、先戻ってて」

そう言うナマエに、真矢は隣に座ったまま動かない一騎の背中をチラリと見て頷いた。

「分かった、じゃあ先戻ってるね」
「一騎も残るのか」

真矢の言葉の後、総士が一騎に問い掛ける。

「ああ、俺ももう少しここにいるよ」
「そうか」

軽く目配せをして総士と真矢はその場を後にした。

風が2人の髪を靡く音が聞こえた。それ程辺りは静けさで満ち、そこに存在する2人も口を開かなかった。








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