67 未知数
「遠見、」
第7キャンプへ到着。偵察部隊をファフナー輸送機から見上げる真矢に一騎は声を掛けた。
「食事、昨日と同じだけど」
一騎はそう言って食事と飲み物を差し出した。
「あったかい」
飲み物を両手で包み込んで真矢は表情を緩める。
「ずっとここで待機しているのか」
「うん、直ぐに出られる様に、!」
そんな会話をしている時、周囲に禍々しい複数の気配と笑い声がした。
「一騎!!」
瞬間、その気配を察知していたかの様にナマエがバタン!と大きな音を立てて階段の上の扉を開けた
「!?」
一騎は思わず目を見開いた。その理由は5、6メートル近くある高さの階段の手すり足を掛け飛び降りた、と言うだけではなかった。
「消えろ・・っ!」
落ちてくる彼女は瞬時に無数の鋭いワームスフィアを作り出し、2人を取り囲む思念体とグレゴリ型のフェストゥムへと放った。
「早く1つになろうよ!」
フェストゥムはそう言ってナマエの放ったワームスフィアから逃げる様に消えて行った。
「一騎!」
呆然とする一騎と真矢。そこに華麗に着地を決め、その勢いそのままに一騎に向かって走るナマエ。
「!」
一騎は自分の首に抱き付くナマエに驚きながらも、受け止めた。
「ありがとう」
「・・ううん、!」
一騎の言葉に安堵を含んだ返事をして、そしてハッとした。
「ご、ごめん!」
そう言ってナマエは慌てて一騎から離れた。戸惑うナマエに一騎は表情を硬くするも、直ぐに表情を戻した。
「にしても、お前、どんな運動神経してるんだ」
「え?」
「あの高さから飛び降りるなんて」
一騎の言葉にナマエは首を傾げる。
「一騎も出来るでしょ、あの位」
「・・流石に無理だと思う」
そんなやり取りに真矢はクスクスと笑った。
「出来るよ、一騎くんなら」
「遠見まで・・」
真矢の言葉に一騎は焦りをみせた。
「ほら、やってみなよ!って、ああ!ゴーバイン見参!って言うの忘れた!」
「総士が聞いたらきっと頭を抱えるだろうな」
「広登くんが聞いたら喜ぶね」
そう言って3人で笑い合った。そしてその夜、一騎は総士に今日あった一連の流れを話していた。
「ナマエがワームスフィアを」
「ああ、お前にも出来るのか?」
一騎の言葉に総士は首を横に振った。
「どうだろうな。だが瞬時に複数を作り出す事は無理だ」
身体に負荷がかかり過ぎる、と総士は言う。
「彼女は人とフェストゥムとの間で揺れる曖昧な存在だ、それによってどうなるかまでは未知数だな」
「そうか」
一騎はそう言って肩を落とす。
「ナマエは、今日もファフナーに?」
「いや、さっき見に行ったら遠見が今日は寝てるって言ってた」
一騎の言葉に総士は仕事が早いな、と呟く。
「一瞬とは言え力を使った事によって疲れたのかもな」
「そう、なのか」
総士の言葉に煮え切らない返事を返す一騎。経験的に分からない事ほど怖いものは無い、と一騎は思う。
分からなかったから、1度は彼女を失った。彼女に嘘を吐かせてしまった。
『待ってる』
北極ミールとの決戦の出発前にナマエが言った言葉。彼女は泣きながらそう言っていた。
今思えば、あの時既に彼女は分かっていた。もう、時間切れだという事を。
「怖いんだ、また知らない内に失くす事が」
星空を見上げて言う一騎に、総士は言う。
「そうならない様に僕らが護ろう、彼女を」
「・・ああ、」
今はただそれだけしか言えなかった。
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