64 2人
「こりゃまたえらいのが出て来たな」
溝口は目の前の機体を見て頭を抱えた。
「ザインそっくり、双子かこりゃ」
「お、双子の双子の機体っすね!」
「広登ややこしい」
そんな3人のやり取りの横で一騎、ナマエ、総士、真矢はザインと並ぶそれを見上げた。
「素直に戦力アップに喜ぶべきか」
総士はそう言って眉間にシワを寄せる。名前のないこの機体はどこから現れ、どう言う構造をしているのか、更にコアがあるかすら不明だ。
つまりこの機体が搭乗者にもたらすものは何か、知る術すら今の彼らにはない。
「1度島に帰り調べろ、と言いたい所だが」
総士はそう言って横にいるナマエを見つめた。
「帰らないよ、私」
総士の思ってた通りの返事に総士はため息をつく。
「そう言うと思ったさ、だがこの機体について何か分かることはあるか」
帰還についてはほぼ諦めていた。だが突如現れた機体にそう易々と乗せる訳にも行かなかった。
「この子は、ザインの分身、一部」
そんな感じがするとナマエは言う。
「きっとお母さん達が与えてくれた。私達が願ったから」
「それは、俺もそんな気がする」
ナマエの言葉に一騎も同調する。
「光に包まれた時ほんの少し母さんを感じた」
一騎の言葉にナマエも頷いた。
「だから大丈夫だよ、総士」
「・・随分非科学的だな」
ナマエ達の言葉に総士はそう言ってため息をつく。だがナマエにそんな笑顔を向けられてダメだと言えた試しがない。
総士はそんな事を思ってフッと笑った。
(お前たちは僕が必ず護る)
手にした力は自身を蝕む。だがそれでいい。ようやく彼らと並べた。その事が総士は何よりも嬉しかった。
(・・・だが)
総士は心の中でそう呟いて横にいる一騎とナマエを見つめた。
「、!」
「あ、・・悪い」
お互いの手が僅かに触れた。ただそれだけだ。だが2人は気まずそうに視線を逸らし、その後に困っていた。
総士は2人を挟んだ先にいる真矢と目が合う。2人してやれやれと苦笑いを浮かべた。
出発前の様なギスギスした雰囲気ではなくなったが、それが突然なくなったが故にお互いどう接したらいいのか分からない様だった。
「遠見、他のファフナーの調整を手伝ってくれ」
「はいはーい」
そう言って総士と真矢は2人に背を向ける。
「え、総士がやるのか」
「真矢も、疲れてるのに」
そんな2人に一騎とナマエは戸惑いを見せた。
「オルガさん達に全てやらせる訳にはいかないし、お前たちは専門外だろ」
「まあ、そうだけど」
「私は大丈夫だよ、ナマエこそゆっくりして」
「え、ちょっと真矢!」
じゃあ、と言って2人はそこを後にしてしまった。溝口たちはその前に配給の手伝いの為に出払った。
辺りに人はいない、日が落ちて皆が室内で過ごしていた。
「・・寒く、ないか?」
しばらくの沈黙の後、一騎がゆっくりと口を開いた。
「うん・・大丈夫」
「そっか」
普通に返ってきた言葉に一騎は幾らか安心した。戦いの中では話せるのに、いざこうやって2人になると何を話していいのか分からない。
昔はずっと2人でいて、たわい無い話しをしていたのに。今じゃ何を話していたかも思い出せない。
それほどに2人の関係も、相手に対する想いも、状況も変わってしまった。
当然と言えば当然なのだけれど、少しあの頃の自分達が羨ましくなった。
今は、下ろした手を少し動かせば触れられる距離にいるのに、動かせずいる。
それでも僅かでも近くにいたくて動かずにいる。そんな複雑な心境だった。
「無理、するなよ」
「一騎もね」
ファフナーを見上げた先に、本物の星空がある。島の空気とは違う、夜の澄んだ空気に少し心が落ち着いた。
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