63 機体


目の前に降り立った機体に瞬きを忘れた。だってそれに乗れるのは1人しかいないから。コックピットを出てそれを見つめる。

「どう、して・・」

思わずギュッと拳を握る。

「どうしてよ一騎・・!!」

悲痛な叫びに一騎もコックピットから顔を出した。

「ごめんな、ナマエ」

でも、一騎はそう言って真剣な眼差しをナマエに向けた。

「お前を護るのは俺でありたいんだ」
「・・っ」

一騎の言葉に涙が溢れた。

「戦いが始まる事、分かってたんだろ」

だから自分が戦えるようにと願った。

「お前が1人で背負う事なんてないんだ」

だって俺たちは、そこまで言って一騎は手を差し伸べた。

「また一緒に戦ってくれるか?」

一騎の眼差しにナマエは落胆する。もう、決めてしまったんだ、と。

「・・分かった」

なら自分の出来る事は1つ。一騎を消えさせない事、ただそれだけ。

「ありがとう、ナマエ」

2人は手を取り、そしてザインへと消えた。そしてザインは剣を高らかに上げる。

「ナマエ、力を貸してくれ」
「うん、」

その言葉にナマエは祈る様に両手を組んだ。途端、降りしきる救済の光。

「一騎、私1人しか助けられなかった」

ザインを中心に街全域が同化の結晶に覆われる。

「・・ああ」

祈りながらもぽつりぽつりと溢れた言葉を、一騎は1つ1つ大切に拾い上げる。

「戦いたい訳じゃないの、でも救いたい」
「ああ、」

同調する様に一騎は剣に力を込めた。

「みんなを・・世界を!」

涙が一雫祈る両手に溢れて、ナマエは顔を上げた。

「!」
「なに、これ・・」

途端、コックピットを含めザインが白い光に包まれた。内から出たそれに、一騎とナマエも驚きを隠せなかった。

「・・温かい」
「ああ、島の空気に似てる」

心地よい浮遊感の中、2人は目を閉じた。その瞼の裏に2人は2つの影を見た気がした。

「護ろう、2人で。俺たちの大事なもの全て」
「・・うん!」


そう2人で笑った。

それが、僕らの祝福だ、と。


「!」

一騎は目を開けて驚く、光が消えたその先にはそこにいたはずのナマエがいなかったのだ。

「ナマエ!?どこにいるんだ!?」
「一騎、」

呼んだ人物の声は予想外の場所から聞こえた。

「まさか、お前・・」
「うん、私だよ」

掲げた剣に手を添えて力を送っている目の前の機体。

「!」

ザインに機体の識別コードが送られてくる。

「名前が、ない」

確かにそこに存在しているはずなのに、表示されたのは【mark ???】

「ふふ、まさに私みたいじゃない」

生まれてもその名を持たず形を成すフェストゥムそのままだとナマエは笑った。

その作りは見た目はまさにザインの様で、少しザインより小さい。

「ナマエお前、戦えるのか」

ふと一騎が心配そうに問い掛ける。

「うん、もう大丈夫」

あと時見たものより、ひどい惨劇が今目の前に広がっている。それだけでもナマエの抱えていた問題は粗方解消した。

だがそれよりも、どうにかしたいと思う気持ちが壁を作り、それが防御壁となってナマエの心を護る。

「・・生きてるのは、半分か」
「うん、あとは帰って来ただけ」

止んだ光の先で2人は目を閉じた。その過酷な現実に胸が痛くなる。

「・・総士の所へ行こう、一騎」
「ああ、行こう。一緒に」


そして2人は光の速さで駆けていく。

失わないものなどない、未来に向かって。











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