62 実戦


夜が明けた。街の一部では未だに戦闘が繰り広げられてる様だった。

「飯だぞー!」

広登が支給された食事を片手に真矢、暉、溝口の集まる場所へ歩み寄る。

「あれ、ナマエ先輩は?」
「そう言えば朝から」

真矢がそう言いかけた時だった。

「!?」
「きゃあ!」

突然ナマエが現れた。真矢の頭上に。

「っつ、ててて」
「わ!ごめん真矢!」

それはまるで真矢を押し倒した様な状況に周りは目を瞬かせた。

「でも来れて良かった」

ナマエはそう言って真矢が起き上がる手助けをしながら表情を険しくした。

「真矢、ここはお願い」
「え、ナマエ」

真矢は一瞬戸惑うも、彼女の表情に何かを察し真矢も表情を引き締めた。

「・・敵が、来るの?」

その言葉にナマエは力強く頷いた。

「分かった、ここは任せて。でも、」
「ありがとう、真矢」
「あ、ナマエ!」

真矢の言葉を聞かずに、ナマエは走って行ってしまった。

「今度は走るんだ」

暉がふと口にする。

「あー、ナマエは決まった相手とかの所しか移動出来ないんだと」
「ゴーバインもその機能欲しかったー!」

溝口の言葉に広登が声を上げる。「いや、あってもお前は使えない」なんて暉の呟きも空から降り注いだものによってその場の空気が一転した。

「ファフナー部隊は今すぐ出撃!溝口さんも今すぐ離陸して!」

混乱する3人に真矢は手短に説明する。

空から降り注いだもの、それはミールの欠片。つまりミールがフェストゥムによって落ちた事を真矢は瞬時に理解した。

そして次は、美羽の番だ。ナマエはそれを伝えに真矢の元へと来た。

「ナマエ・・」

危機を知らせてすぐいなくなってしまった彼女の名を呼ぶ。そして真矢もファフナーの元へと急いだ。





「っ、ひどい」

ナマエは崩壊したミールのすぐ近くまで来ていた。堕ちていくファフナー、そしてフェストゥム。次から次へと来る衝撃にナマエは目をこらす。

「!、あれは!」

そして視界に一機のファフナーが映った。倒れ込み、そしてコックピットにはフェストゥムが同化現象を起こしている最中だった。

「間に合え!」

この至近距離なら、とナマエは力を込める。瞬間、ナマエはその機体の上にいた。

「どけ!」

力を込めた右手は金色に光り、そこにはワームスフィアが描かれる。そして寄生する者がいなくなり、ナマエは機体に直接触れた。

「お願い、戻って来て・・!」

その瞬間、機体はナマエを巻き込み結晶化する。


ーーーパリン


「っ、」

そして目を開けば、機体の中に僅かな鼓動を感じた。

「良かった」

一筋の汗が首筋を伝った。

「ちょっと借りますよ、」

そして機体に乗っていた気絶したパイロットを運び出し、搭乗席に座った。

「ん、大丈夫」

ニーベルングシステムに指を通し、見た景色に唖然とする。

「人が、人を・・」

そこにはファフナー同士、いや正確にはファフナーと同化されたファフナーが銃を向けあっていた。

「どうして、こんな事・・っ」

己の非力さに涙が出そうになる。もっと力があればまとめて彼らを救う事が出来るのに。

「!、なに・・」

そしてナマエは身震いする。近くから流れ込んで来た感情が余りにも禍々しかったからだ。

「悪魔だ!悪魔がでた!」

人類軍の無線からそんな声が聞こえる。

「悪魔・・、!?」

そしてナマエは自分の目を疑った。コックピットを引きずり出し、串刺しにするフェストゥムの姿に。

「なによ、あれ・・」

笑ってる。そう、感じた瞬間、走り出していた。

「どうして、どうして理解しないの!?」

敵がナマエに気付き、標的を定める。

「くっ・・!」

ワームスフィアを鋭い円型にして放つフェストゥム。

「それなら私だって!」

ナマエも同じ様にワームスフィアを作りそれを矢の様にした。

「いっけえええ!」

しかし、それも凌がれ、弾かれてしまった。

「っ、やっぱり人類軍の機体じゃ、!?」

瞬間、フェストゥムが目の前まで迫っていた。ナマエを他の機体と違う事を認識した様だった。

「っく!!」

それを受け止めるも、その速さに飲み込まれ飛ばされる。

「っ!!!」

そして壁へと打ち付けられてしまった。

「っ、ーーきゃあ!!」

目を開く時間もなく右腕に鋭い痛みが走る。流れ込んでくる快感。それは殺戮を楽しむフェストゥムのものだった。

「ふざ、けんなあああああ!!!」

左手に剣を作りそれをフェストゥムの腹部へと差し込んだ。途端、悲鳴が聞こえた。

「お前は、痛みを知って生まれ変われ」

頬には一筋の涙が溢れた。

「くっ、」

フェストゥムの消滅を確認して、思わずその場に片膝をついた。

「2回目の実戦があいつはキツイわ」

そう思うともう何年も前に戦ったフェストゥムは無垢だと思った。

今戦ったフェストゥムの感情を最初に感じていたら、もしかしたら私は

「!」

そんな考えを過らせていた時、ふと懐かしい気配がした。いや、それはずっと隣にあった。ここに来てそれが消えていた事にも気付かなかった。今この瞬間にそれを感じるまでは。

「マーク、ザイン」

ナマエは目の前の現実が、ただ幻である様にと願った。










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