61 目配せ


「・・・」

時間は既に夜更け、シュリーナガルに到着して宿舎にて各々が休息を取っていた。そんな中ナマエは部屋のベランダに出て街にそびえ立つミールを見つめていた。

「やっぱり、私に声は聞こえないか」

美羽の到着に少しの喜びの様な感情は感じる事が出来る。だが、それだけだ。それに、今日ミールの近くまで皆で行った時の事をナマエは思い返す。

「何が起こってやがる!?」
「今すぐ彼女をミールから離して!」

溝口の焦りに満ちた声が響き、エメリーが声を上げた。

「・・っ」

ナマエの身体は金色に光り、身体から金色の粒子が舞っていく。

「ミールが彼女を欲しがってる!早く!」

そしてナマエは消えそうな意識の中、広登や暉に担がれて外へ出た。

その後同化は収まった。エメリーはこう言う。最近まで人間だと思って育ってきた貴女の感情をミールは学びたいのだと。

だが本来出来る筈の思考の共有がナマエには出来ない。だからナマエごと同化し、学ぼうとしたのだと。

「私、死にかけたんだよね」

月明かりの下で手のひらを見つめた。恐怖、安堵、あの時彼女はどちらも感じた。それに戸惑い、やはり悩まずにはいられない。

「!」

頭がチクリと痛んだ。島を追うフェストゥム程ではないが、大きな力が迫ってる。

「まだ、消えれない」

守らなきゃいけないものが、ここにはあるから。そして物凄い衝撃がナマエ達のいる宿舎を襲った。

「何が起こってるの!?」
「フェストゥムが来た、多分美羽ちゃんの所へ」
「なんだって!?」

合流した真矢が声を上げ、ナマエが外を見つめながらそう言えば一緒にいた溝口が声を上げる。

「急がなきゃ!」
「私も行く!」

そして2人は美羽と弓子の元へと走る。

「・・ナマエはどうして来たの?」

走りながらふと真矢が問う。きっとずっと疑問だった。いや、何となく分かってる。だけど真矢はナマエには一騎の側にいて欲しかった。もう彼のあんな顔は見たくないから。

「真矢と一緒」
「え?」

真矢が首を傾げてナマエを見れば、ナマエは笑っていた。

「インタビュー、見たよ」

そう言うナマエに真矢は少し恥ずかしそうに目を逸らした。

「私も、自分に出来る事を知りたいの」
「そっか、」

自分には出来なくてナマエには出来る事がある。それを手放してまでやりたい事ってなにか、と真矢は思った。だがそんな考えも振り払う様に首を振った。

「真矢?」
「ううん、なんでもない」

真矢は誤魔化すように笑って見せた。そして美羽達の部屋の辺りに着くと、そこは思った以上に崩壊していた。

「あ!」

吹き抜けとなったそこに真矢は弓子の後ろ姿を見つけた。

「お姉ちゃん、良かった」

安堵の声を上げるも、抱き抱えている美羽に違和感を覚える真矢。

「美羽ちゃん、なの?」

そんな真矢の言葉に弓子は眠っているだけだと言う。そんな弓子にも真矢は違和感を感じた。

「・・っ」

1人ナマエは自分の拳を握る。弓子が少し振り向いて目配せをした。それは黙っておいて、と言っているかの様にナマエは感じた。








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