56 紅茶
人類軍輸送機、そしてフェストゥムの襲来が確認された。
「ったく、助け合いなさいっつーの!」
咲良、剣司、一騎、そしてナマエの4人はモニターで戦況を見つめていた。
「・・・」
一騎は震える手を自らで必死に抑えようとしているナマエを横目に見た。
少し前なら躊躇わずにその手を握っていたのに、今は色々なしがらみにまとわり付かれて上手く動かせない。
「・・っ呼んでる」
ふとナマエがか細い声で呟いた。耳に手を当て眉間にシワを寄せた。
「っ!」
「ナマエ!」
途端、膝から崩れる様に座り込むのを、一騎は咄嗟に受け止める。
「・・一騎っ」
今にも泣き出しそうな声でナマエは一騎の名を呼んだ。自ら一騎の手を取り、ギュッと握る。
「大丈夫、大丈夫だから」
何かに怯えるナマエの背中に手を回して抱き寄せた。
「ナマエ、遠見先生の所へ行くか」
剣司が心配して声をかけるも、ナマエは一騎にしがみ付いたまま首を横に振った。
「そのまんまにしてやんなよ」
咲良の言葉に剣司は渋々頷く。
「ありがとな、剣司」
「気にすんなよ」
一騎と剣司がそんなやり取りをした後、人類軍のファフナーが島へ降り立つ。
そして島のファフナーと共闘し、何とか戦いを終えた。
「・・っ来る!」
そしてナマエの肩が大きく揺れ、勢いよくモニターを見る。それにつられて3人もジッとモニターを見つめた。
「な、なんだよあれ」
「フェストゥム、なの・・?」
ただただ巨大なそれは島をジッと見つめた後、姿を隠す様に消えていった。それとほぼ同時にナマエの肩の力が抜ける。
「もう、大丈夫・・」
「あ、おいナマエ!」
ナマエはそう言って一騎の制止も聞かずにフラフラと立ち去ってしまった。
「あとは任せとけよ」
呆然とする一騎に、剣司が肩を叩いてそう言った。
「・・ああ、頼む」
「本当、あんた達って面倒ね」
剣司にそう言って、咲良の言葉には苦笑いを返した。
そしてナマエに握られた手を見つめて、ギュッと握る。一騎はそこに、今だにナマエへの想いがある事を知った。
ーーーチリン
その日の夕方、喫茶楽園の扉が開いた。
「いらっしゃい、って・・ナマエ」
そこには1人で気まずそうに立つナマエがいた。
「座れよ」
一騎が優しくそう言えば、ナマエはカウンターに腰を下ろした。
座っても尚、一騎の顔は見ようとはせず、どこか居心地が悪そうにしていた。
「ほら、温かい紅茶」
そんなナマエの前にカチャンと小さな音を立てて置かれた1つのティーカップ。そこからは僅かに甘い匂いがして、ナマエは肩の力が少し抜けた。
「・・ありがとう」
「ああ」
特に会話をする事なく、ナマエはただ座って紅茶を飲み、一騎は店の支度をした。
それでもどこか2人はホッとしていた。同じ空間にいる、ただそれだけでよかった。
「あ、やっぱり空いてた・・って、ナマエ?」
そこに検査を終えた真矢がやって来た。真矢はカウンターに座る人物に驚き、そして笑った。
「来てたんだね!ゆっくりしてってよ!」
「たまにはね、でもそろそろ・・」
「まーまーそう言わずに!」
真矢はそう言ってエプロンを片手に取って自分に付ける。
「遠見、今日はいいよ」
「大丈夫大丈夫!」
そんな2人の姿に、ナマエは我慢出来ず飲み物を飲み干した。
「やっぱり私はもう」
「え、もう帰っちゃうの!?」
真矢の言葉にナマエはごめんね、とだけ告げ立ち上がった。
ーーーチリン
でもそんな時、溝口の部下が店へとやって来た。
「一騎くんは、いるね」
「俺、ですか?」
珍しい客に一騎は首を傾げる。
「君に会いたいって人達がいるんだ」
そして現れた3人の人類軍ファフナーパイロット。
彼らは言う。MAKABE因子のお陰でファフナーに乗れる。Dアイランドの英雄、カズキ・マカベに会えて幸せだと。
ナマエはそれを聞かされている一騎の背中を見つめた。そして堪らず席に着いてぶっきら棒に言葉を発した。
「一騎、紅茶のおかわり」
「・・分かったよ」
一騎はフッと笑ってキッチンへと戻って行った。そんな一騎にナマエは空になったティーカップを渡す。
「もうちょっと甘めで」
「太っても知らないからな」
「なっ・・!」
そう言って笑う一騎に、ナマエは頬を膨らませた。
「本当、ばか」
ふいっと顔を逸らしたナマエの顔は、少し赤らんでいた。
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