55 時間


「ナマエは、どうしてる」

青空の空の下、一騎は空を見上げながら総士に問いかけた。

「変わらず、だな。研究とパイロットを梯子してる」
「乗れる様に、なったのか?」

一騎の言葉に総士は首を横に振った。

「それも相変わらずだ」
「そうか」

あれから幾月かが過ぎた西暦2151年6月。ナマエは誤解を抱いたまま、一騎は誤解を抱かれたまま時を過ごしていた。

総士と真矢が何度か2人の仲を取り付けようとしたが上手く行かず、誤解だと伝える事は出来ても一騎がナマエを想っているなんて事はとてもじゃないが総士の口からは言えなかった。

一騎がメディカルルームへナマエを運んだ日も、丸一日眠ってしまったナマエとタイミングが合わず今だに運んだのは総士だと思っている。

「元エースパイロットとして教官の道もあるんだぞ」

皆が進路を決め、その仕事が始まっていた。決め兼ねているのはやはり一騎だけになってしまった。そんな一騎に総士はそう告げる。

「何かを学んで、やり始めて、でもそれがやり残した事になるのは嫌なんだ」

あと3年、一騎は小さくそう呟く。それは現時点での一騎の寿命を指していた。

「バカね」
「ナマエ、」

突然聞こえたナマエの声に、一騎は少なからず驚いた。なんせ彼女がここに来るのは久方ぶりだからだ。

「この島は誰かのやり残しの塊。皆が何かしらのやり残しを引き継いでる、その人の意志ごと」

総士の横に立って2人がしていた様に空を見上げた。

「・・絶対、死なせない」

その目は決意と覚悟に満ちていた。

「ナマエ、」
「総士、午後の研究始まるよ」

一騎の声を遮って、ナマエはそれだけ言って2人に背を向けた。

「ああ、分かった」

その言葉を聞いてナマエは足早に去ってしまった。

「相変わらず、だな」

総士の言葉に一騎は苦笑いを浮かべて再び空を見上げた。

「分からないんだ、どうしたらいいか」

ナマエの感情も、気持ちも分からなくなってしまった。会えない期間が長過ぎて、今みたいにたまにあって変わらず過ごしているならそれで良いと思ってしまう。

「どっちにしろ残された時間に限りがあるからな」

だから伝えたとしてもいずれ別れが来る。だったらこんな状態で別れが来た方が傷は少なくて済む、と一騎は思っていた。

「彼女のいう通りだな」
「え?」

一騎の言葉に総士はメガネをクイっとかけ直した。

「お前はバカだよ」
「ひどいな、お前たちは」

そんな話しをしていた時だった。

「総士!!」
「ナマエ?」

ナマエが血相を変え走って戻ってきた。そして彼女は告げる。

「何か、何が来る・・っ」

ナマエの切羽詰まった言葉に2人は顔を見合わせ3人でアルヴィスに向かって走り出した。

再び悪夢の様な歯車が回り出す。それはぼ僕らの意志とは関係なく全てを巻き込み飲み込んでいく。

そして、僕らの最後の物語が始まった。










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