50 しがらみ
2世代の交流の後日。ナマエは咲良の家へと尋ねていた。
「なーに、今日は総士の手伝いない訳?」
「んー今日はお休みー」
縁側に2人足を投げ出して座る。ナマエは訪ねて来たはいいものの、空を見上げたまま黙りこくっていた。
「聞きたい事、あるんじゃないの?」
「・・なんで分かったの?」
咲良怖い、なんて険しい顔して見つめるナマエに、咲良は額をペチンと叩く。
「イタッ」
「ったく、ふざけてんじゃないわよ。で、なによ」
咲良の言葉にナマエはうーん、唸ってまた空を見上げた。
「咲良は剣司のどこが好きなの?」
「な!?あんた、人が真剣な話しをしてるっつーの、に・・」
一言ってやろうと思った咲良だが、ナマエの横顔は真剣で、切なくて、茶化す為じゃなく言った言葉なのが分かった。
照れ臭さがなかった訳じゃない。だけど、彼女がそんな様な悩みを抱えているのが分かった以上、大きく息を吐いて脳裏に剣司の姿を思い浮かべた。
それを彼女が求めているなら、出し惜しみする必要なんてないと思ったからだ。
「あいつは、側にいてくれたから」
「側に?」
咲良の言葉にナマエは首を傾げる。
「本当ダメダメな奴だけど、でもなんてゆーか」
そう言って咲良は自分の右手を見つめた。
「落ち着くんだ。触れていると」
咲良の横顔が余りにも優しくて、女の子らしくて、今まで見た事もない咲良を見つけた気がした。
好きな人を想うと、咲良も里奈もこんなに女の子らしくなる。
「まぁまだ恥ずかしさもあるけど。でも、少しでも触れていたいと思うんだ」
そんな表情を見せられる度、ナマエは疎外感を感じた。自分には欠落しているものを見せつけられている様な気がして。
「もう、あいつなしの生活は正直ごめんだね」
「そう、なんだ」
照れながらも優しく笑ってそう言う咲良が羨ましかった。
「あんたは総士が好きなの?」
「え?」
突然の咲良の質問に、ナマエは顔を上げ、そして笑った。
「それ、一騎にも聞かれたけどそんなじゃないよ」
「へー、一騎がね」
咲良の意味深な言い方に首を傾げるが、咲良は別に、としか言わなかった。
「じゃあ一騎が好きなの?」
「な、なんでそうなるのよ!?」
ナマエの慌て様に今度は咲良が首を傾げた。
「わ、私と一騎は兄妹なんだよ!」
「血なんか繋がってないでしょ」
「そ、そうだけど」
面倒だ、と咲良は心で呟いた。余計なしがらみを自らぐるぐると巻いて苦しんでいる。咲良に今のナマエはそんな風に見えた。
「でも私達は双子として育って来たの!一騎だってそう言ってたし、それに・・!」
「それに?」
咲良は悲痛な叫びを上げるナマエに言葉を促す。今吐き出しているものは本人も気付かない間に溜め込んでいたもののような気がしたからだ。
「それがなくなったら、私達の間には何も残らないじゃない・・っ」
「ナマエ・・」
ナマエが恐れていること、それは一騎との繋がりがなくなる事。
側から見ればそれだけで彼女の気持ちは一目瞭然だろう。だが当の本人が自分の気持ちを受け入れられずにいる。
「・・ごめん、今日はもう帰るね」
取り乱してしまったと少し後悔して、ナマエは咲良に無理やり笑って見せた。
「ちょっと待ちなって!」
「咲良、ごめんね」
ナマエはそう言って駆け出した。引き止めようと伸ばした手が、行く当てもなく崩れ落ちた。
「本当、バカなんだから・・!」
咲良はもどかしさを隠せずに落ちた手のひらをギュッと握った。
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