45 自覚


あれから数日が経った。

島は本来の静けさを取り戻し、空いていた時間が嘘だったかの様に皆は自然と喫茶楽園へと集まっていた。

「お前ら、他に集まるとこないのか」

店番である一騎はため息まじりに注文を取る。

「いーでしょ、打って付けの場所じゃない」
「そーよーケチくさいこと言うんじゃないよ一騎」

そんな一騎にナマエと咲良はこぞって反論をする。

「まぁ飯も食えるしなー」
「程よく静かだしな」
「剣司と総士まで・・」

最早味方はいなさそうだと一騎は早々に諦める。

「私手伝うよ」
「ああ、ありがとう遠見」

すっと立ち上がる真矢。ナマエの目にはそれがごく自然に見えた。他のメンバーもそれに対して何も言わない。それがナマエには物凄く不自然であった。

「仲、いいのね」

ボソッと言った言葉は、唯一総士の耳に届いた。

(こっちの自覚はまだか)

コーヒーを啜りながらそんな事を考える。

恐らく彼女は気付いていないだろう。今自分がどんな表情をしているかを。

「そろそろ海かなぁ」

ふと剣司が呟く。

「あ、私も行きたい!海!」

剣司の言葉にナマエは真っ先に食らいつく。さっきの表情が嘘だったかの様に。

「前にみんなで行った時はナマエ行けなかったもんね」
「ならば今から綿密な計画を立てなければ」

カノンの言葉に話しに花が咲く。

「流石にもうスクール水着は着れないよね」
「あ、じゃあ今度みんなで買いに行く?」
「行くー!カノンも!」
「私も!?あ、ああ!」

女子の熱気に男子は静まり返った。

「真矢ー!あんたも行くでしょ!」
「行く行くー!」

咲良の声にキッチンから真矢の声がする。

「お前らもう少し静かに」
「どんな水着にする!?」
「前に弓子先生が着てたの可愛かったわよ」
「カノンとか似合いそう」
「私か!?」

既に一騎の声は届かず、女子4人はそのまま夕刻までしゃべり通した。

「あー楽しみ!」
「お前らよくあんなに喋れるな」

楽園からの帰り道。一騎とナマエは並んで帰路に着いていた。

「別にそんな話してないでしょ」
「そう、なのか」

ナマエの言葉に一騎は少しげんなりした。殆ど話していない男子が疲れて帰ったのは言うまでもなく、それでもその横顔が明るい事に一騎はホッとしていた。

「ねえ、一騎」
「ん」

ふと立ち止まったナマエはそこから見える海を見つめていた。

「私、ちゃんと笑えてるよね」

そう、自信なさげに彼女は呟く。風に揺れている髪を耳に掛ける手が一騎の目に止まった。

「ああ、大丈夫」

その手をそっと掴んで、キュッと握った。不安がる必要なんてないんだって伝えたかったから。

「ありがとう、一騎」

そんな一騎の手を握り返してナマエは笑った。

「あ、そうだ」
「どうした」

そしてナマエは思い出したかの様に声を上げた。

「ねえ、弓子先生どんな水着だったの?」
「な!?」

ナマエの突然の質問に一騎は言葉を詰まらせた。

「咲良が可愛かったって言うから、私もそんな感じにしようかなーって」
「お前、あれ着るのか!?」
「え、ダメなの?」

ナマエの言葉に一騎は珍しく取り乱した様に首を横に振った。

「ダメだ!いや、でも・・やっぱりダメだ!」
「・・変な一騎」

その日、一騎は口を開かず、翌日ナマエに口を聞いてもらえなかった。















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