43 空
「・・し、」
声が、聞こえた気がした。
「だれ、だ・・」
消えかけた己の意識。それを誰かが手繰り寄せている。そんな感覚がした。
「そう・・」
ゆっくりと目を開く。眩しさに思わず眉をしかめた。彼は知っていた。その眩しさ、その温かさを。
「ナマエ・・」
「そうだよ、総士」
光の止んだ先に、彼女がいた。
「良かった。今度は間に合って」
うっすらと瞳に涙を浮かべながら笑うナマエに、総士は夢でも見ているのかと錯覚した。
「今度こそ、一緒に帰ろう」
「・・ 帰る、」
復唱した言葉にナマエはゆっくり頷いた。だが、突然ナマエが顔色を変える。
「これは・・」
総士は、囲われている器に手を当て、ナマエに問う。
「どうした」
「人類軍、」
ナマエは空を見上げて痛む胸を押さえた。
「私が守るよ、総士」
「君は逃げろ」
ナマエの言葉に総士は声を上げる。人類軍の攻撃から守るにせよ、自分を移動させるよせよナマエへの負担は未知数だったからだ。
「ナマエ」
「!」
そんな時、ナマエの背後から声が聞こえた。
「お、母さん・・」
突然の紅音の登場に目を見開くナマエ。だが、次の紅音の行動に、ナマエだけでなく総士も驚きを隠せなかった。
「・・・」
紅音はただ無言でナマエを抱きしめた。それが何を意味するのか、ナマエ達が知る頃紅音の存在はもうない。
「真壁一騎の所へなら行けるな」
「え、うん・・」
突然の問いにも、ナマエは紅音の腕の中で頷いた。
「この子達を頼む」
視線を送られた総士が、ただその言葉を聞いた瞬間に紅音は消えてしまった。消えかけている、島のミールの元へ。
そして人類軍のミサイルが放たれた。
「!、」
ナマエはハッとして総士が囚われている器に手を当てる。
「行こう、総士」
「いいのか」
総士はナマエの瞳に問い掛ける。するとナマエは力強く頷いた。
そして2人は人類軍の放った赤い光の中へ消えていった。
◇
「・・ん、」
一騎は眩しさに目を覚ました。僅かに朦朧とする意識の中で、ぼんやりとした影が映った。
「一騎」
「来主・・お前なのか?」
一騎にはその人物の表情はやはり見えなかった。
「君から空を見えなくしているものだけは無くしてあげようと思って」
勝手なことしてごめんね、とその影は言う。
「でも、君が空を見る事が出来て嬉しい」
その言葉の意味を一騎はまだ理解出来ていない。
「・・途絶えた」
「!」
突然変わった声に、一騎はハッとした。そしてその人物は紡ぐ。まるで誰かの言葉を代弁するかの様に。
「それが、彼の最後の思考だ」
その淡々と放たれる声に、一騎は思わず瞳に涙を溜めた。
「ありがとう一騎、島を・・僕の帰る場所を守ってくれて」
「・・ん、」
そしてもう1人の人物が目を覚ます。
「ナマエ、」
一騎の腕で眠っていたナマエ。朦朧としていた意識でその存在に一騎は今しがた気付いた。
「あれ、私いつの間に・・」
「慣れないことをして疲れたんだろう。僕をニヒトに乗せてくれたのは君だからな」
「そう、し・・」
目を擦っていたナマエが、その声に目を見開いた。
「・・っ、見える」
「え・・?」
そして一騎の言葉に、ナマエは自分のすぐ近くにある一騎へと視線を移した。
「お前達が、見える・・っ」
「一騎・・っ」
そう言って涙を流す一騎に抱き付いて、ナマエも涙を流した。
「お前達、僕を忘れるなよ」
頭上から聞こえた声に、2人顔を見合わせて笑った。
「「おかえり、総士」」
重なった声に、総士はフッと笑みを零す。
「ああ、ただいま」
外に出れば、そこにはマークザインを支えるマークニヒトがいた。
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