39 約束


「皆ーお待たせー!」

次の日、検査を終えたナマエは喫茶店楽園へ足を運んだ。

「遅いっつーの!」
「待ってたよー」

咲良と真矢が入り口で出迎え、席に案内する。

皆の提案でお帰り会をする事になった。楽園は1日でしたとは思えない程華やかに飾り付けされていて、ナマエは辺りを見回して1人1人の顔を見つめた。

「皆・・本当、ありがとう」

胸に手を当てて、改めて帰って来た事、今ここに生きているという事に感謝する。

「あ、この匂い!」

するとナマエはそう言って突然立ち上がり、キッチンにいる一騎の元へ駆け寄った。

「カレー!」

目の前に並べられた材料を見て、ナマエは声を上げた。そんなナマエに一騎は微笑む。

「手伝ってくれるか?」
「うん!」

そんな2人を見て、席に着いた真矢が立ち上がる。

「そんな、手伝いなら私が」
「遠見、ナマエにやらせてやってくれないか?」

真矢の言葉を遮って、一騎がそう言う。

ナマエはエプロンを取りに2階へ駆けて行った。

「ずっと、何か足りないと思ってた。それが何か、分かったよ」

そう言って一騎は鍋を火にかける。

「ナマエ、普段料理しないくせに、カレーだけは2人で作ってた」

食材も調味料も、作り方だって何か変わる訳じゃない。

「だけどこれだけは、俺たち2人で作らなきゃ完成しないんだ」
「一騎くん」

閉じられた瞳が優しく開かれる。真矢はそこで何故一騎がここでカレーを作り続けてたのかを知った。

「お待たせ!」
「ああ」

軽快に降りて来たナマエは、ニコニコとしながらキッチンへ入る。

「やっと約束、護れた」
「・・ああ、」

ナマエの呟きに、一騎は静かに目を閉じる。まるで今この瞬間を噛みしめる様に。

「っい!」
「またやったのか」

そして料理開始早々に指を切ったナマエに、一騎はため息混じりにそう言った。

「またじゃない、久々だからです」
「作る度怪我してるだろ」
「ちょっ!なんで皆がいるのに言う訳!?」

そう言いながら一騎に手当てをしてもらう。一騎の手つきは慣れたものだった。

「・・でも、私からもちゃんと赤い血が流れるんだね」

傷む指を見つめがら、少しほっとした様に呟く。

「私ね、思うの。これは本当のお父さんとお母さんの意思なんじゃないかって」

人間の父と同化された人間、フェストゥムとの間に生まれたナマエ。

世界に蔑まれようとも、2人に愛された事だけでも奇跡に近い。

「だから人でもフェストゥムでも、私のなりたい方を選びなさい、って言われてる気がするの」

そう言ってナマエは一騎が手当てをしてくれた指をぎゅっと握った。

「本当、感謝しても仕切れないね」

そして言葉を発する事なく黙ってナマエの言葉を聞いていた一騎は、ナマエの握った手をそっと包み込んだ。

「俺もナマエのもう1人の父さんと母さんに感謝してる」

一騎の言葉に、ナマエは首を傾げた。

「だって護ってくれた。そしてこの島に連れて来てくれた」

一騎の優しい瞳がナマエを捉えた。

「本当、感謝しても仕切れないな」
「・・うん!」

そんなやり取りを、皆は微笑ましく見つめた。

仲の良い兄妹の再会。そう見えない者もいたが、それでもそんな2人を祝福した。

やがて出来上がった料理を並べ、皆が食べ始める。

「んじゃあ、改名しないとなあ!」

溝口が突然立ち上がってそう言う。

「今日からここの看板メニューは、一騎ナマエカレーだ!」

そんな声に、ナマエは心底嬉しそうに笑った。








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