38 木霊


2人の祈りが続いた。

皆が不安げな瞳で見つめ、どの位経ったのだろうか。誰1人 口を開く事なく、ただ時間だけが過ぎていく。

完全に島が夕焼けに包まれ、各々に影と橙色の光を与えた。そして、突然2人が同化の結晶に包まれた。

「一騎!」
「一騎くん!」

皆が切羽詰まった声を上げた。


ーーーパリン


そして皆が見つめる中、結晶が砕ける。その先には3人の姿があった。

「ナマエ・・っ」

史彦が真っ先に駆け寄った。

一騎と紅音の腕で眠るナマエを、しゃがみ込んで撫でた。

「・・っ、よくやった一騎」

涙を堪えながら、史彦は一騎を讃える。4人で寄り添う姿に、遠くから見ていた溝口は目頭を押えた。

そして史彦は紅音に視線を変えた。

「ナマエを助けてくれた事、感謝する」

しかし、史彦はずっと疑問に思っていた事を紅音に口にした。

「でも何故、フェストゥムのお前がナマエを」
「理由はない。だが・・」

そう言って紅音はナマエを見つめた。

『これが、お母さんの匂い』

頭によぎった言葉、それはナマエが島を発つ前に紅音に抱きつきながら言った言葉だった。

「だが・・?」

史彦がそう聞き返すと、紅音はスッと立ち上がる。

「私の役目は終わった。ここにいる理由はない」
「母さん!」

皆に背を向けた紅音に、一騎が声を上げた。

「ありがとう」
「・・・」

そして紅音は消えた。2人はしばらくその見えなくなった背中を見つめていた。

「ん・・」

そして腕の中から微かな声が聞こえた。

「ナマエ!」
「あれ、お父さん・・なんで私の部屋に、」

ナマエはまだ寝惚けている様だった。長い長い夢を見ていたんだ。無理もない。

そんなナマエを、史彦は一騎ごと抱き締めた。

「すまない・・っ、本当にすまない」
「父さん・・」

震える声の史彦に、一騎は呟く。

「帰ろう、俺たちの家へ」
「・・ああ、」

そして一騎はナマエを抱えて立ち上がる。

「あれ、どうして皆こんなところに」
「・・っナマエ!!」

皆が揃ってるのを見たナマエはそう問い掛ける。目が合った咲良は、思わず駆け出した。

「咲良、なんで泣いてるの?悲しいの?」

心配そうにナマエはそっと咲良に手を伸ばした。

「ちがっ・・バカ!嬉しいのよ!」

伸ばされた手を取って咲良は涙を流しながら笑った。

「もう、絶交だからね!」
「え?え?」

一騎に咲良が何故怒っているかを問うナマエ。だけど皆、そんなやり取りを微笑ましく見つめるだけだ。

「なによみんなしてー!」

ナマエの声が木霊する。

そんな姿を、木の陰から操が見つめていた。






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