37 光
夕刻、ナマエの同級生は全員丘に集まっていた。
その他は史彦、少し遠い場所からは溝口、そしてファフナー2機が配備された。皆は期待と緊張、不安が入り混ざり複雑な表情を浮かべていた。
「ソロモンに反応あり!・・これは!」
史彦は通信で聞こえて来た声に拳を握りしめた。そして一騎の前に降り立った人物に驚いた。史彦以外は。
「やはりお前か」
「母さん・・」
それは紅音だった存在。史彦は単純にあんな信号を送って来る人物が紅音以外思い浮かばなかった。
「本当に、ナマエを連れ戻せるのか」
静かに史彦が口を開く。すると紅音は表情を変えず、淡々と言葉を発する。
「真壁一騎次第だ」
「!」
紅音の言葉に一騎の表情が少しばかり強張る。史彦は何故一騎なのかと問い掛ける。すると紅音は静かに語り始める。
「人間の核攻撃で飛ばされた真壁ナマエを探していた。ようやく見つけたが、私の力だけでは及ばない」
だから繋がり合い、ナマエに近い存在の一騎の声が必要だ、と紅音は言う。
「真壁ナマエを呼べ。彼女の意識をこちらに向けられればあとは私がやる」
「ナマエの意識・・」
一騎の言葉に紅音は頷く。
「彼女に声が届くのはお前しかいない。お前の声が届かなければ、時期に真壁ナマエは消える」
「俺に、出来るのか・・?」
不安げに紅音を見つめる一騎。紅音はやはり表情を変えずに言う。
「お前はナマエに会いたいのではないのか?」
「それは、会いたい!」
「お前はナマエに、言う事があるのではないのか?」
「俺は・・!」
紅音の問いに一騎は拳を握った。
「・・呼べば、いいのか?」
一騎の言葉に紅音は一騎の両手を握った。
「ああ、あの子を頼む」
「母さん・・」
「さあ、呼べ」
紅音に促され、一騎は瞳を閉じる。すると広大な闇の中に幾多の光を感じた。
ゆっくりと目を開ける。するとそこは宇宙の様だった。数々の星が駆け巡り、流れては消えていく。
そして一騎は一際光る物体を見つける。懐かしく、優しい光。一騎はそれを両手で包み込み、抱き抱えた。
「聞こえるか、ナマエ」
返答はない。形もない。でも一騎は確かにその光にナマエを感じた。
「まだ眠ってるのか?いつもはナマエが起こしてくれたのに」
まだ数年しか経っていないのに、酷く懐かしく幸せな、細やかな思い出が頭を過ぎった。
「なあ、ナマエ」
一騎はゆっくりと瞳を閉じて語り掛ける。
「総士を護ってくれてありがとう」
言いたい事がたくさんあった。伝えたい事がたくさんあった。
「咲良が泣いてた。お前に会いたいって」
でもそれらはいつも言えないまま一騎の胸に転がっていた。
「俺も、お前に会いたい」
いつか言えると思ってた。いつでも言えると思ってた。でもそれは違う。現に彼女はこうして消えようとしている。
「また悲しませるかも知れない。痛みを与えるかも知れない。」
一騎はゆっくりと瞳を開けた。
「俺たちの、俺の我が儘だって分かってる。でも・・」
ギュッと光を握った。消えないでと願いながら。
「俺は、ナマエに隣にいて欲しいんだ・・!」
そしてそっと握った手の平を開く。すると光はゆっくりと上昇していく。
「ナマエ!俺は、ここにいる!」
その瞬間だった。
「・・っ!」
激しい光が放たれた。思わず腕で視界を覆う。
そして光がゆっくりと引いていき、一騎はそっと腕を下ろした。
「!」
目の前には、ナマエがいた。最後に見た彼女より少し髪が伸びている、なんて考えて一騎は胸が苦しくなった。
「・・ん、」
「おはよう」
そしてナマエがゆっくりと目を開ける。
「一騎・・?」
「なんだ、まだ寝惚けてるのか?」
寝ぼけ眼を擦りながら言うナマエに、一騎は微笑む。
「長い、夢を見てた気がするの」
「ああ、」
「私達がまだ小さい頃の夢」
「・・ああっ」
一騎は思わずナマエを抱き締めた。
「一騎・・?」
腕の中で首を傾げるナマエを抱きながら、一騎は言う。
「帰ろう、俺たちの島へ・・」
「うん」
ゆっくりと一騎の背に手を回すナマエの温もりを感じて、一騎は一筋の涙をこぼした。
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