00 双子


「一騎!早くしないと遅刻する!」

朝、ここ竜宮島に朝日が登り、今日の1日が始まる。
真壁家にも同じく朝は訪れ、ナマエは声を上げた。

日常的な言葉に足踏みを加え、ああ、もう、と言葉を漏らす。

「そんなに急がなくても間に合うだろ」

2階から焦るナマエとは裏腹に、ナマエの双子の兄、一騎はのんびりと降りてくる。

「私今日日直!」
「それ、俺は関係なーー」
「早く!」
「うわあ!」

ブツブツと呟く一騎の手を引く。すると1階で土器を作っていた2人の父である史彦が手を休める事なく口を開いた。

「気をつけるんだぞ」
「はーい!行ってきます!・・お母さんも」

遠い昔に亡くなった母、真壁紅音の遺影に呟く。そしてぶっきらぼうに挨拶を交わす親子に、ナマエはため息をついて家を後にした。

これも最早日常となった光景である。

「そういやこの前また言われちゃった」
「何をだ?」

学校への通学路を並んで歩く。小さい頃から変わらない、彼らの日常だ。

「一騎と似てないーって」
「まぁ、二卵性らしいからな」

俺たちは、なんて少し他人事の様に言う一騎にムッとするナマエ。そんな僅かな苛立ちを含みながらナマエは一騎に問いかける。

「どうする?私達血が繋がってなかったら」

冗談半分にナマエがそう言っても、一騎はうーん、と煮え切らない言葉を漏らして天を仰いだ。

「関係、ないんじゃないか」
「え?」

予想外の言葉にナマエは足を止める。すると数歩進んだ一騎も立ち止まり、ナマエを振り返る。

「今まで双子で育って来たんだから、それでいいだろ」
「!」

何でも無い様に、当たり前の事の様に、余りにも普通に言う一騎に、ナマエは目を見開いた。

どうせまともな回答なんて返って来ないと思っていたからだ。

「一騎ーー!」
「え!?う、わあ!」

ナマエは数秒間動きを止めながらも、思わず駆け出し、驚きと喜びをぶつける様に一騎に抱き付く。

「かずきかずきかずきー!」
「ちょ、やめろよ」

首元に抱きついたナマエに少しうんざりしながらも、一騎は はいはい、とナマエの背を叩く。大袈裟な妹だな、なんて呟きも、ナマエは気にもとめない。

「それより、日直だろ」
「あ!」

一騎の言葉にナマエはハッとして離れる。どうしてもっと早く言わないのか、なんて理不尽をぶつけても、一騎はため息1つで流す。

「早く早くー!」
「だからなんで俺まで・・!」

再び一騎の手を引いて走り出すナマエ。駆け出した瞬間の風心地良くて、なんだかいい日になりそうだなんて根拠のない浮遊感に襲われて、思わず笑みが溢れた。

「ふふ、」
「なんだよ」

走りながら笑うナマエを少し怪訝そうに見る一騎。でもそんな視線気にならない位、ナマエの気持ちは高ぶっていた。

「一騎だーいすき!」
「なっ・・に言ってんだよ」

照れた様に一騎は視線を逸らす。

海沿いを走る2人の影は、繋いだ手から1つになり、地に痕を残す。

こんな毎日が続くと思っていた。

少なからず、この2人は。この時は。

疑い様のない毎日に、奪われる事を知らない日々に

僕らは夢を見ていたのかも知れない。




彼らは双子。

運命を共にする。







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