34 蹂躙
「ご注文は?」
お昼時、喫茶店楽園にて真矢は息つく暇もなく店内を回る。
「はいよ、B卓2セット!」
「はい、溝口さん追加」
真矢容赦ない言いように溝口は思わず不満の声をもらした。
「一騎カレー2セット追加!」
溝口の言葉に、料理を作り続ける一騎は困った様に振り返った。
「やめて下さいよ、溝口さん。メニューに俺の名前つけるの」
「お前がここの看板なんだよ」
西暦2148年。北極圏の戦いから、2年が経過した。
あれからフェストゥムの襲来はなく、誰しもがこの平和がいつまでも続くようにと願った。
だが世界では、フェストゥムを殲滅しようと動き出す。それを皮切りに、再び世界が戦火に包まれていた。
ーーーカラン
店を閉め、1人溝口の帰りを待つ。静かにグラスの中の氷が音を立てれば、懐かしい声が聞こえる。
「待っている、俺は・・ずっと」
無意識に言葉を返していた。その声に身を委ねていると安心した。まるで2年前に消えてしまった友が、すぐ側にいる気がしたから。
そしてその日は、U計画ーーつまりは盆踊りが開催された。各々がそれぞれ祭りを楽しみ、死者に向けて灯篭を流した。
「・・・」
あれから2回目の灯篭。その2回とも彼女の灯篭を流す事のない一騎に、真矢は疑問を抱いていた。
一騎は総士同様、彼女も帰って来ると信じてるのだろうか。確信があるのか、それともただの願望なのか。
真矢は一騎の核心に触れられずに、モヤモヤとしていた。
「ねえ、一騎くん」
「どうした?遠見」
真矢が意を決して問い掛けようとした時、しばらく鳴っていなかったサイレンが島中に響いた。
騒つく会場。提灯の並ぶ通りに集まる見慣れた人達。そして一騎の頭に、言葉が流れ込む。
「希望は蹂躙された」
「!」
そして一騎は一目散に走り出す。そんな一騎に驚いた真矢とカノンも後に続いた。そして海岸に荒々しく到着する一隻の輸送機。
一騎は船が完全に止まるのを待たずして飛び乗った。
「総士・・!」
船の中には総士ではない1人の少年がいた。一騎はしばらくその少年に手をあてた後、再び走り出す。
「何かあったら11番を使え」
その言葉通り、一騎は11番ゲートからアルヴィス内へと降りて行く。そして、マークザインの元へと辿り着いた。
約2年振りの痛み、感覚、そして気配。あの時はいつも彼女の存在が隣にいる気がしていた。
その僅かな名残がザインの中にある気がして、一騎は目を閉じる。
「マークザイン、出撃準備完了。許可を求めます!」
CDCに容子の声が届いた。
「ザインだと!?・・一騎っ」
それを聞いた史彦は辛辣な表情を浮かべる。
「・・マークザイン、出撃!」
苦渋の決断をする史彦。出撃するな、とは言いたくても言えなかった。
「なんでお前たちなんだ・・・!」
一騎は襲撃して来たフェストゥムに身1つで突っ込んで行く。だがトドメをさす所でハッとした。フェストゥムが、何かを訴えていたからだ。
「・・くっ!」
その瞬間をフェストゥムは見逃さず、更に己を進化させていく。
「これは、フェストゥムか!?」
一騎が戸惑った時、フェストゥムは一騎を捕まえ蹴り飛ばす。そして自らの武器を銃のように使い、一騎を襲った。
「うあああああ!」
激しい痛みと同化に一騎は悲鳴を上げる。
「パイロット急速に同化!」
「これが本来ザインの同化現象だと言うのか・・!」
史彦は片隅に1人の少女の顔を浮かべ、握った拳を力を入れた。
それはかつて、戦いの犠牲になり、我々が支払った平和への代償だった。そして、何より大切なものだった。
史彦は痛む胸を抑えながらハッとする。今は戦闘中、過去の傷に浸っている暇はない。
そして真矢、剣司、カノンの援護もあり、フェストゥムの消滅を確認する。
これが2年後の新たな絶望の旅への始まりだとは、まだ誰も知らない。
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