33 お別れ


「一騎、僕の身体はもう・・ほとんど残ってはいない」

北極圏の戦いにて、誰ひとり欠けることなく終えたと思われた戦いの結末は、あまりに残酷だった。

一騎は両目の視力をほぼ失い、総士はすでに身体の大部分を同化され、消えていた。

「一緒に島で治療しよう!そうすれば!」
「お前はそうしろ」

だが、自分はもうすぐ消える、と総士は呟く。

「そんな・・っ」
「なぁ、一騎」

言葉を詰まらせる一騎に総士は見えるはずのない空を見上げた。

「ナマエの事、好きか」
「・・ああ」

少し躊躇って、でもハッキリと口にした一騎に、総士はフッと笑みをこぼした。

「僕もだ」
「・・そうか」
「驚かないんだな」

あっさりと受け入れる一騎に、総士は少し驚く。

「何となく、な。ナマエがフェストゥムだって言うのも、総士から聞いたし」
「なんだ、根に持ってるのか」
「別に、」

不貞腐れた様に言う一騎に、総士は微笑む。

「時間だ」
「総士?」

突然告げるタイムリミットに、一騎は何度も総士の名を呼んだ。

「僕は1度フェストゥム側の世界に行く」
「何、言ってるんだ」
「でも僕は、僕という存在を形成してみせる」

何年掛かろうとも、必ず。そう言って総士の声は途絶えた。

「総士!!」
「・・一騎」
「!、ナマエ・・なのか?」

そして変わりに聞こえてきた声に、一騎は見えない目を見開いた。

「ごめんね、間に合わなかった」
「ナマエ、どうやってここに・・まさか!」

一騎は1つの答えにハッとする。そんな一騎の頬を、ナマエは優しく包んだ。

「私に出来るのは、これくらい」
「!?」

ナマエが額を付けると、身体に風が駆け抜ける。

「一騎の中に、総士はいるよ」

ナマエは頬にあった手を一騎の首にまわした。

「お母さんが、ここまで連れてきてくれたの」
「母さんが?」

一騎の言葉に、ナマエはゆっくり頷く。

「そう、お別れを言う為に」
「!」

ナマエの言葉に、一騎はナマエの背中をギュッと抱いた。

「なんで・・っお前まで消えたら俺は・・!」

ナマエの肩が、一騎の涙で濡れた。

「大丈夫、一騎は1人じゃないよ」

そうでしょ?とナマエは笑ってみせる。

「私の存在が消えなければ、私は総士の側にいるよ」

だから、一騎ともきっと繋がっていられる。そう言って一騎から離れた。

「もう、行かなきゃ」
「約束、しただろ!帰ったら一緒に料理するって・・!」

それは、一騎が出発前にナマエと交わした約束だった。目が見えない変わりに、必死に叫んだ。どうか、消えないで、と。

「ごめんね、一騎」
「・・っ」

一騎の中で、ナマエの気配がどんどんと薄れていく。

「私、本当に幸せだったよ。だから、願ってるーー」
「ナマエ・・?」

そして言葉の途中で完全に消えてしまった気配に、一騎はうな垂れた。

「っナマエ、俺は・・俺が言いたかったのは」

聞いてほしい事がある。これも出発前に交わした言葉だ。

「俺は、ナマエの事がーーー」







ーーねえ、一騎。覚えてる?


色々な事があったよね。

毎日一緒に登校して、勉強して、ご飯を食べて、眠れない時は手を繋いで寝たりした。

どれもこれも、思い返せば貴方がいるの。双子だから、家族だから当然?一騎はそう言うかもね。

でもね、フェストゥムとして生まれた私には、全てが奇跡の様だったの。それが当たり前だと思ってた自分が、凄く浅はかに思えた。

でもそれは、他でもない、一騎とだったからこんな風に思えるんだと思うの。私はもう一緒にいられないけれど、いつまでも願ってる。



「貴方の、幸せを。」




ーーーそんな言葉が聞こえた、気がした。













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