29 悲痛


「総士・・!」

一騎と椿による総士の救出作戦は順調に進んでいた。ジークフリードシステム内の総士との通信も復活し、皆が安堵の声を上げた。

「な、に・・!?」
「ナマエ?」

だがナマエは突然、猛烈な寒気と悪寒に襲われた。全身の毛が立ち、ガタガタと震え始めた。

そんなナマエの異変に史彦が気付いた、その時だった。

「ソロモンに反応あり!」

咲良の母、澄美の声がCDCに響く。すかさず史彦がパイロット達に命じ、真矢、カノン、道生の3名が出撃をした。

そして姿を現したのは、他でもない、同化されたファフナーであった。

「マーク、ニヒト」

強制的にクロッシングを行おうとするファフナーの名を総士が張り裂けそうになる頭を抑えて呟く。

「総士・・!」

同化されたファフナー、マークニヒトはジークフリードシステムに張り付いたフェストゥムを活性化させ、その触手は瞬く間にアルヴィス内へと広がっていく。

「!、なんだ!?」

そしてCDCにもその手は迫り、史彦は緊迫した声を上げる。

「全員退避!!」
「総士!!」
「ナマエ!」

思わず叫ぶナマエの腕を掴む。そして、多くの人間が触手に飲み込まれていく。

「CDC!このブロックを切り離せ!」

道生の声がCDCに響く。史彦は急いで切り離しの作業をし、道生に伝える。

「ぐあ!」
「お父さん!!」

だが下から這い出る触手に当てられ、史彦は投げ飛ばされてしまう。ナマエは慌てて駆け寄り、史彦を庇うように覆い被さった。

「ナマエ、にげ・・なさい・・っ!」

痛む腕を押さえながら、史彦が声を上げる。

「いや!絶対いや!」
「ナマエ!!」

しがみつくナマエに、史彦は初めて怒鳴り声に近い声を上げた。その声にナマエは肩を震わせ、史彦を見つめた。

「逃げなさい・・父さんの、頼みだ」
「・・っ」

史彦のさっきの言葉とは打って変わって優しい口調に、ナマエは唇を噛んで涙を堪えた、その時だった。

「うわああああああ!!」

通信から流れるその声に、ナマエと史彦はモニターへと視線を移した。

「総士を返せえええええ!!」

「う・・っ!!」
「ナマエ!」

ニヒトに迫る一騎。その同化現象がナマエの身体を蝕む。

「総士ーー!!」

無情にも総士を連れ逃げ去るニヒト。

「一騎・・」

一騎の悲痛な叫び声が、ナマエの胸に哀しく響いていた。










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