28 同化現象
遂に、咲良が倒れた。
メディカルルームにて、意識のない咲良を見て泣き崩れる剣司。
ナマエは、そんな咲良を見て手が、足が、意識さえもが震えていた。
「さ、くら・・っ」
昨日まで、さっきまで話していたのに。どうして。目の前の光景に頭痛がして吐き気がして、眩暈を起こした。
「ナマエ!」
そんなナマエを横にいた一騎が支えた。
「かず、き・・っ!」
一騎に触れた瞬間、堪えていたものが溢れ出してナマエは一騎にしがみ付きながら泣き声をあげた。
「ナマエ・・っ」
そんなナマエを一騎は強く抱きしめた。ナマエの感じている哀しみが、少しでも自分へ移れと願いながら。
そして繰り返す戦闘の代償が、ナマエの中で隠せないものとなる。
「さく、ら・・」
メディカルルームにて、ナマエは内から湧き出そうな何かを押さえ込みながらも彼女に会いに来ない日はなかった。
「お願い・・目を覚まして」
手を握って神経を集中させる。触れた先に願いを込めながら。
「・・どうしてっ」
ナマエは毎日咲良の元へ訪れ、咲良の同化現象を自分に移せないか試みていた。
だがそれは未だフェストゥムとしての存在を受け入れたばかりのナマエにとっては難易な事だった。
一騎の同化現象は流れて来るのに、何故他の人のを受け取ることが出来ないのか、ナマエは苛立ちを隠せずにいた。
「咲良、ごめん・・ごめんねっ」
そんな時、再び島中にサイレンの音が鳴り響いた。
「な、に・・!?」
暫くしてアルヴィスが大きく揺れ始める。フェストゥムの触手がキールブロック、総士のいるジークフリードシステムを襲った。
「・・っ!!」
そしてナマエは全身を覆う痛みに襲われ、その場に膝をついて自分を抱きかかえた。
「一騎っ・・!」
自らを抱えた両腕が金色に光り輝く。もう、余り時間がないのは明白だった。そして、一騎にも遂に同化現象が表立つ。
そしてその日の戦闘で衛が戦死したと知らされ、更には触手に総士が囚われてしまった。
「一騎・・」
戦闘後、殆どのパイロットがメディカルルームに運ばれた。ナマエは眠る一騎の手を取り、額に掛かる髪を撫でた。
「ん・・っ」
「良かった、」
それに身をよじる一騎に、ナマエは胸を撫で下ろす。
「ナマエ、」
「!」
だが開いたその瞳を見て、ナマエは驚きを隠せなかった。
「一騎、目が・・っ」
そのまま言葉を失ったナマエに、一騎は微笑んで握られた手を握り返した。
「大丈夫、片方だけだから」
「・・っ」
そう言う一騎にナマエはベッドに顔を押し付け、涙を堪えた。
そんなナマエを見て、一騎は空いてる手でナマエの髪を撫でる。
分かっていた。戦い続ければいずれにせよ、こうなってしまうことが。
覚悟したはずだった。2人で戦うと決めた時に。それでも目の当たりにした事実に涙を流さずにはいられなかった。
そして翌日、ジークフリードシステムに閉じ込められた総士の救出作戦が開始される。
「一騎、」
ファフナーに乗る直前、ナマエは一騎を思わず呼び止めた。
「大丈夫、すぐに総士を連れてくる」
そう言う一騎に、ナマエはそれ以上何も言えず、無理矢理微笑んで頷いた。
「行ってくる」
「気を付けてね」
総士をお願い。そう言ってナマエは胸の前で手を握った。
「ああ、」
そして一騎と乙姫による総士の救出作戦が始まった。ナマエはCDCにて、史彦の隣でモニターを見つめていた。
これから、悪夢の様な時間が始まる事を知らずに。
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