25 好きだよ


ーーーガタン!


フェストゥムとの戦闘を終え、一騎と総士がナマエの部屋へ向かう途中、大きな物音がした。

「なんだ?」
「ナマエの部屋からだ・・!」

2人顔を合わせてナマエの部屋へ飛び込む。すると床にうずくまるナマエを見つけ、一騎はナマエに駆け寄る。

「ナマエ!どうし、!」
「・・っ!」

一騎は自分の目を疑った。ナマエの右腕が、金色に輝いていたからだ。

「や・・見ないで!!」
「ナマエ!!」

一騎の腕を振り切ってナマエは部屋を飛び出す。総士はナマエを呼び止めるも、ナマエは振り返らない。

部屋を見ると、呆然としたまま動かない一騎がいた。

「っ!」

ナマエを追いかけるか、一騎に声を掛けるか。

一瞬のうちに長い葛藤と戦う。何が最善か。何が2人の為になるのか、自問自答を繰り返す。だが答えは見つからず、総士は一騎に歩み寄った。

「ナマエは、フェストゥムだ」

音のない部屋に、静かに総士の言葉が響いた。

「総士は、知ってたのか」

俯いたまま一騎は総士に問う。

「前から勘付いてはいた。だが真実を知ったのは最近だ」
「そう、か・・」

明らかに肩を落とす一騎。

「追い掛けて、やってくれ」

それは総士の答えではなく願いだった。

「・・悪いっ」

そう言って一騎は駆け出した。そんな一騎を横目で見送って、総士は目を閉じる。

「これで、いいんだ」

駆け出しそうになる己の足が動かない様に力を入れた。痛む胸に、気付かない振りをしながら。





「ナマエ!!」

追い掛けてたどり着いた先、それはかつて、自分達の母が好きだと言っていた丘だった。

「一騎・・」

丘の先から海を見ていたナマエはゆっくりと振り返る。その顔は涙で濡れ、赤く腫れている。

「総士に、聞いたんでしょ?」
「・・ああ、でも!」
「やめて!!」

一騎が声を上げた瞬間、ナマエはそれをかき消すように声を上げた。

自らを抱きしめ、首を横に振る。何も聞きたくないと、言うように。

「・・やっぱり私達、双子じゃなかったね」
「・・・」

諦めにも似たような感情がナマエを支配する。嫌われる、拒絶される。そんな思考が止まってくれない。

「一騎には、知られたくなかった・・っ」
「・・ナマエ、」

地面に膝をつけ、震えながら涙を流すナマエに、一歩、また一歩と近く一騎。

「そんなの、関係ないんじゃないか」
「!」

一騎の言葉にナマエは顔を上げる。

「今まで双子として育ったんだから、それでいいだろ」
「それ、は・・っ」

その言葉にナマエは聞き覚えがあった。

「って、前にも言っただろ。忘れたのか?」

そう言って、一騎は笑った。

「かず、き・・っ」
「なんだよ、言わないのか?あの時みたいに」
「っ!」

ナマエは駆け出した。両手を目一杯広げて。

「お、っと」
「かずき、だいすき・・っ」
「・・ああ、」

一騎はナマエを受け止めて、優しく抱きしめた。

「俺も、大好きだよ」

見上げた空は、青く澄み渡っていた。









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