23 理由


アルヴィス内、ナマエは数ヶ月前から生活する部屋にて、総士と2人で史彦の昔話しに耳を傾けていた。

事の始まりは小一時間ほど前、CDCにいた史彦の所へ訪ねたのはナマエだった。

そして覚悟を決めた瞳に、史彦もついにこの日が来たのだと察した。

そしてその横には総士がいた。決意したもののそれを1人で受け止める自信がナマエにはなかったのだ。

そして哀しくも美しい昔話を史彦は語った。

「これが、全てだ」

語り終えた史彦は、ふぅ、と1つ息を吐く。

「・・話してくれてありがとう、」

ひたすらに涙をこぼすナマエに、史彦は胸が締め付けられる。

総士も言葉が見つからないのか、ただ黙ったまま何かを考えている。

「ナマエをファフナーに乗せないのはこれが理由ですか」

やがて総士が静かに口を開いた。

「そうだ。フェストゥムとの接触によってナマエが混乱し、暴走するのを恐れた」

現にナマエがマークゼスクで出撃し、フェストゥムと接触した事によりナマエは昏睡状態となった。

言うならばあの日ナマエが暴走して島を襲う、という可能性もなかった訳ではない。

「本当、ごめんなさい」

監視の意味をナマエと総士はようやく理解した。そして自分のした事がどれほど危険なものだったかを思い知らされた。

「もういい、今日は疲れただろう。もう寝なさい」

史彦の言葉にナマエはゆっくりと頷く。そして史彦は重い腰を上げ、出口へと向かう。

「待って!」

突然ナマエが声をあげて史彦を呼び止める。史彦は振り返り、ナマエの言葉を待った。

「あの、その・・お父さんってこれからも呼んでもいい?」

史彦は驚いて目を見開いた。きっとそれは、もう叶わない事だと史彦は思っていたから。

「当然だ。お前は俺たちの大事な娘だからな」
「!、ありがとうっ・・お父さん」

そして史彦はおやすみ、と言って足早に部屋を後にした。

「・・・」

そして部屋を出た所で立ち止まり、壁に背を預けた。

「紅音、すまない。お前は間違ってなかった」

あの時、紅音がナマエを育てると言った時、島の皆は勿論、自分も反対をした。

でも、それでも今はナマエを育てることが出来て、親になって良かったと心から思った。熱くなった目頭を抑えて、しばらくその場で立ち尽くす。

すると噂を聞き付けた溝口が近づいて来た。

「その顔、上手くまとまったみたいだな」
「ああ、おかげさまでな」
「いい娘を持って羨ましいね〜」

今夜は奢りだなーなんて話しながら、2人は顔を合わせた。

「お前にうちの娘はやらんからな」
「はいはい親バカだな、相変わらず」

肩を並べて笑いながら、2人はアルヴィスの長い廊下の先に消えていった。













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