19 告白
一騎の帰還、ナマエの目覚め、そしてコアである乙姫の覚醒。それから数日が過ぎようとしていた。
そしてその間の出来事を遠見家で食事を終えた一騎と話しをしながら真矢は振り返っていた。
人類軍が去り、そして囮と言う名目で残ったカノンによる、フェンリルの作動。
そしてその後訪れた父、ミツヒロの件だ。ミツヒロが訪れた同時期、真矢のコード改ざんが明るみになった。
その事自体は真矢にとっては喜ばしい事だった。
だがその時、大人達は必死にナマエの存在をミツヒロに隠し通したのだ。
それは大人達に総士が抱いていた懸念が、他の子供達も抱くきっかけになった。
そして何より、ミツヒロが査問委員会の時に言いかけた言葉。
「何よりあの娘は危険だ。あの娘は完璧なーー」
子供達の事をただの電池だと言い切った後、それはその場にいない、ナマエに向けてだと言わずもがな、誰もがはっきりと分かった。
でもその先は大人達によって遮られ、子供達が耳にする事は叶わなかった。
そしてミツヒロは最後、ナマエの存在を確信しているかの様に真矢に呟く。
「あの娘には近づくんじゃない。」
真矢は何も言わなかった。何も、知らないからだ。
「ナマエはどう?元気?」
肩を並べて食器を洗う一騎に、真矢は手を止めずに問いかけた。
「ああ、体力も戻って来たみたいで盆踊り楽しみにしてるよ」
「・・そっか、良かった」
ナマエの話しになると顔が変わる。そんな些細な変化に自分から振った話しにも関わらず真矢は声を落とした。
「一騎くんは、何か知ってるの?」
「・・ナマエの事、か?」
少し間をあけて言う一騎に、真矢は小さく首を縦に振った。
「いや、」
そして小さく否定する。一騎も気になっているんだろう。真矢もそっか、とだけ言葉を返す。すると「でも」と一騎が顔を上げた。
「別にいいんだ。ナマエの秘密が何であれ、俺が護りたい相手なのは変わらない」
その横顔を、真矢は見ていられなかった。胸が苦しくて、その場でうずくまってしまいたかった。
「なんかそれ、愛の告白みたいだね」
苦し紛れに言った言葉は、言った後でハッとして口元を抑えた。凄く、皮肉交じりに言ってしまったからだ。
「愛の、告白か」
「一騎くん?」
真矢の心情とは裏腹に、一騎は差して皮肉とは捉えずに言葉を繰り返した。
「・・分からないんだ、そう言うの。」
それは、一騎の本音だった。
「ただ、今まで俺を護ってくれてたナマエを、今度は俺が護ってやりたい。」
ただ、それだけなんだ。一騎はそう言って笑った一騎はただ純粋に、ナマエの事が・・真矢の目にはそう映った。
砕け散りそうになる心を何とか保って、真矢も一騎に笑いかける。
「楽しみだね、盆踊り」
「ああ、」
そして一騎達を見送った後、弓子が真矢に耳打ちをする。
「どーだったのぉ?一騎くんとはっ」
楽しそうに言う弓子に、真矢は別に、と素っ気ない返事を返す。
「何もないよ。私達の間には、」
近付けたと思った。ようやく皆んなと同じパイロットになり、肩を並べられると。
でもやっぱり、近くにいるはずの彼は、1番遠い所にいる様な気がして仕方なかった。
「それでも私、戦うよ、翔子。」
暗くなり、1人窓の外を見上げて呟く。
「きっと、守ってみせるから」
流れた光が、まるで彼女の意志を祝福しているかの様に輝きを放っていた。
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