17 護るから
「一騎・・」
目の前まで迫っていたフェストゥムは光の速さで帰って来た一騎によって瞬殺された。
その光景に島や人類軍の人間は驚愕した。そしてそのファフナーに一騎が乗っていると言う事実にも。
「行っておいで、私は大丈夫だから」
半ば茫然と立ち尽くしていたナマエに、乙姫はそう声を掛ける。
だがナマエはでも、と立ち尽くした。目の前でフェストゥムと会話をしていた彼女を1人にしてはいけない、何となく直感でそう感じた。
そして言葉とまではいかずとも、フェストゥムの感情を感じた自分にも戸惑いを隠せなかった。
「一騎に会いたくないの?」
「!」
乙姫の言葉に、ナマエはごめんねっ、と言い残してその場を駆け出した。そんなナマエを見て、乙姫は笑みをこぼす。
「ごめんね、総士」
そして島を見渡す。息を大きく吸い込んでゆっくりと吐き出す。
「初めての、深呼吸」
乙姫はまたふふ、と笑った。
◇
「はぁっ、はぁ・・!」
島の坂道を走る。一騎が乗っていた機体は見えているのに、一向に近付く気配はない。何故なら坂道以上に、何カ月も眠っていた自分の身体が体力の低下を隠せずにいたからだ。
「つか、れた・・!」
膝に手をついて肩で息をする。喉がカラカラでむせ返りそうだ。
「ナマエ!」
「!」
そんな時、前方から聞き慣れた、でもどこか懐かしい声が聞こえた。
「一騎・・!」
一騎もファフナーからナマエを見つけており、走ってナマエの元へ向かっている最中だった。
ナマエは身体を起こし、足を前へと動かそうとした。だが足は震え、思った様に動かない。そして一騎を見た瞬間、色々な事が頭を過った。
(私は一騎に会う資格なんて、あるのかな)
思えば一騎に言っていない事がある。隠していて、知られたくない事がたくさん。
そんな思いがナマエの足を地面に付けたまま、まるで根が生えてしまったかの様に動かせずにいた。
「ナマエ!」
「!!」
だがそんなナマエの想いをお構いなしに、一騎は走って来た勢いそのままにナマエを抱きしめた。
そんな一騎にナマエは目を見開く。今までナマエから一騎にじゃれて抱きついたりはしていたが、一騎から抱きつく事などなかったからだ。
「本物、だよな?」
「かずき・・?」
ナマエが一騎を呼ぶ声に一騎は抱きしめる腕に力を入れた。
「ごめんっ・・!」
「え?」
苦しそうに謝罪をする一騎に、ナマエは何故自分が謝られているか分からず首を傾げる。
どちらかと言えば、謝らなければならない事があるのは、自分の方なのに。そんなナマエの心境とは裏腹に、一騎は言葉を続けた。
「本当に、ごめん。今度は、俺が護るから」
「一騎・・っ」
一騎が何故そんな事を言い出したのか、ナマエにはやっぱり分からなかった。でも、それでも一騎の言葉を聞いた瞬間、胸が震えた。
1人じゃないんだよ、と言われてる気がしたからだ。
「ありがとう、一騎。おかえりなさい」
「ああ、ただいま」
似つかないお互いの額をコツンと合わせて2人して笑った。お互い僅かに瞳に涙を滲ませながらも、その存在を確かめる様に。
「あ、あれ一騎くんの乗ってたファフナー!」
遅れて帰還した溝口と真矢は空からマークザインを見つけた。
「あれは、一騎く、」
「ん?どうしたお嬢ちゃん?一騎はいたか?」
「・・ううん、」
真矢はそれでも坂の途中で1つになる影を見つめていた。
「見付けられなかったよ、私には」
「?」
真矢の態度に溝口は首を傾げる。そして、真矢の最後の言葉は、溝口の耳には届かなかった。
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