14 初めまして


「戦わず降伏する気ですか!」

アルヴィス、CDC内にて、総士の声が響く。

「人と戦ってはいけない、なにがあってもだ」

荒ぶる総士をよそに、史彦は冷静に告げる。その言葉は重く、史彦達の世代の過去を物語る。

竜宮島に訪れた敵、それは今回に至ってはフェストゥムではなく、人。

既に何発か島への着弾を確認し、シールドも破られてしまった。恐らくは何者か、この島に詳しい者が手引きをしているのだろう。

着実に迫り来る人類軍。目的はこの島のミールとフェストゥムに唯一対抗出来るファフナーであろう。

それでも史彦は動かない。

「この島のミールもファフナーも奴らの手に余る。なら、1度触れさせればいい」

尚も納得のいかない総士と、深く腰掛けた史彦。想うは先程人類軍とは入れ違いで島を出た溝口と真矢か。

人類軍は手に入れたマークエルフからの情報を全世界へ発信した。映像を見た世界中の人々は歓喜し、希望を抱いたであろう。

だがしかし数刻もせずとも、フェストゥムによってモルドバ基地が壊滅されつつある映像が何者かによって流された。

そこで総士は一騎の姿を見つける。それにより溝口と真矢は飛び出すような形で島を出た。

3人が無事帰って来る事を祈りながら、人類軍の到着を待つ。

そしてCDCに現れたのは人類軍バーンズ大佐、そして、狩屋由紀子であった。

「コアをどこへ隠したの!」

由紀子は声を上げる。問われている史彦と総士は首を傾げてなんの事だと問い掛ける。

「岩戸はもぬけの殻だったわ」
「!」

岩戸。島のコアが眠る場所が空であった。それが何を意味するのか、考えられる事は1つ。彼女が完全に覚醒し、目覚めたという事だ。

そうなれば所在地は史彦達と言えど、分かるものはいない。

「真壁司令!」

そんな時、普段CDCに顔を滅多に出さない人物が駆け込んできた。

「何かありましたか、遠見先生」

血相を変えて言う千鶴に、史彦もただ事ではないと察する。

「それが、ナマエちゃんが・・!」





「見付けた」

丘に立ち島を見渡す黒髪の少女、その後ろ姿に彼女は静かに話しかけた。

「遅かったね、ナマエ」

具合はどう?なんて首を傾げる少女。自分の名前を知らないはずの少女に名を呼ばれ、ナマエは僅かに眉を寄せた。

「初めまして、私は皆城乙姫」
「皆城、」
「そう、総士の妹だよ」

でも、そう言いかけて唇を塞がれた。乙姫は人差し指を立て、それ以上は言わないでと言っている様だ。

「だって、それを言ってしまったら、貴女が傷付くから」
「・・・」

乙姫の言葉を、理解したくなかった。だが、何となく理解出来てしまう自分がいた。

だって現にナマエは、感知出来るはずのない乙姫の気配を辿ってここまで来たのだから。それだけでも 普通 ではない。

「教えて、私は何者なの?」
「貴女は、」

そこまで言って乙姫は言葉を止めた。そして険しい表情で海の先を見つめている。

「ちょっと、・・っ!」

答えを促そうとしたが、鈍い痛みが脳に過ぎり、察した。敵が来るのだと。

「それくらいなら私にも何とか出来るかも」
「な、に・・」

痛みに座り込んでしまったナマエの両頬を優しく包み、乙姫は自分の額をナマエの額に重ねた。

「うそ・・」

途端、痛みは消え、乙姫は身体を離す。

「これからきっと、もっと辛いと思う。だけど、私にはナマエと一騎の糸を切る事は出来ないの」
「ちょ、待って。なんの話し・・」

淡々と紡がれていく乙姫の言葉に、ナマエの頭は混乱していく。それでも尚、乙姫は言葉を続けた。

「でもね、大事なのは、自分自身がどんな姿で世界を祝福したいか、なんだよ」

だから、そう言って乙姫はナマエの手をそっと自分の胸の前で握りしめた。

「大丈夫、選べるよ。だってナマエは、1人じゃないもの」

そう笑って、乙姫は手を離し立ち上がってナマエに背を向けた。

「どこに、行くの?」
「彼らにも選んでもらうの。私が選んだように、ナマエが選ぶように」

そう言って乙姫は展望台へと登る。

「ナマエも早くシェルターに行って、皆が探してるよ」

再び階段を上がり始める乙姫。

「・・っもう!」

そしてナマエも乙姫を追う。今は何も分からずとも、その先に何かがあると信じて。







←Back