15 閃光


時は少し遡り、ここ人類軍モルドバ基地に、一騎の姿はあった。

地下であるため、窓1つない部屋に囚われてどの位になるか測る術がここにはない。そんな部屋のベッドに腰掛けて考える。

島の皆はどうしているのだろうか。父は、総士は、そして、未だにナマエは眠り続けているのだろうか。

「・・俺は、どうしてこんな所にいるんだ」

外の世界を見た。見たら何か変わる気がした。変わりたくないはずなのに、変化を求めている自分に自嘲する。

狩谷由紀子に結果として騙されてここ、人類軍の捕虜とされた。だがそれよりも自分の浅はかさに腹が立った。

世界を知りたい。あの2人が見た景色を見て、追い付きたかった。理解を、したかった。

だが結果としてファフナーを奪われ、身体の隅々まで調べられ、閉じ込められている。

先程数年前に島を出た日野洋次と話をした。

「戦って敵を倒すか、戦う者をサポートするか」

世界にはその2択しかないのだと。いや、戦うのが嫌になった訳ではない。ただ、理解したかった。

何故総士がそうまでして戦うのか、何故ナマエは心を閉ざし目を覚まさないのか。

ただ、それだけだったんだ。

「!!」

警報音と爆発音が響き渡る。何が起こったのか、誰に聞かずとも分かる。

非常事態によるセキュリティーの解除により部屋のロックが開かれる。

「結局、戦いのない所なんてないんだ」

部屋を飛び出して駆け出していた。他でもないファフナーの元へ。逃げる為ではなく、戦う為に。

そして戦闘の最中、人類軍の兵士達は言った。命は惜しくは無い、と。

それはきっと、総士の考えに近いんだろう。例え小さな何かを護れるなら、自分の犠牲は大した事では無い。

だからこそ総士はファフナーが大事だと言った。パイロットが死んでも、ファフナーさえあれば島を、島のみんなを護れる。

だからこそ、たった1つの命よりもその他大勢を救うべき道を総士は選んだ。いや、言い聞かせていたんだ。

かつて父に、島のミールを守る為だけにおまえは存在しているのだと言われた言葉を、彼は今も毎日自分に言い聞かせてる。

そして目の前でフェストゥムに次々と人が殺されていく。

総士はナマエは恐らくフェストゥム目線で世界を見たのだと言っていた。悲鳴、溢れ出す生暖かいもの、そして止まる鼓動。

想像も出来ないくらいの憎悪や恐怖を、ナマエは肌で感じたのかもしれない。

「くっ・・!」

やがてフェストゥムと戦えるのは自分だけになってしまった。そしてその一騎自身も、遂にはフェストゥムに捕まってしまった。絶望的とも言える状況で一騎は視界の端に閃光を見た。

「な、んだ!?」

物凄い光と熱量が一騎を掴んでいたフェストゥムの腕を貫いた。

「あれは、ファフナー!?」

そこには白を基調とした見た事のないファフナーが君臨していた。そして、そこから出てき来た人物に、一騎は自分の目を疑った。

「母さん・・!?」

そう、それは一騎達が幼い頃死別した真壁紅音であった。

一騎は操縦席を出て直接紅音と対峙する。そして、やはりそこには写真と変わらない姿の母がいた。

「私はこのマークザインをお前に渡す」

それが日野洋二の頼みだ、と感情の読み取れない口調で紅音は言う。

「母さん、母さんなんだろ!?」
「真壁紅音はもういない。私はお前たちの言うフェストゥムだ」
「!」

そして、用が済んだとばかりに、紅音はその場から姿を消してしまう。

呆然とする一騎。しかしそうもしていられず、紅音が乗って来たマークザインへと乗り込む。

ニーベルングシステムに指を通し、起動させる。その後の鋭い痛みもだいぶ慣れてしまった。

「凄い、身体の感覚が全然違う」

動かしてみて、改めて違いを感じる。そして僅かにチクンと、脳に痛みが走った。

「ナマエ・・?」

なぜか双子の妹の名が浮かんだ。気配を感じて振り返っても、勿論誰もいない。自分でも何故そう感じたかは分からず、視線を前に戻す。

するとそこにはドロドロとしたフェストゥムであったものと対峙する紅音の姿があった。

そして、

「!!」

フェストゥムであったものはそのまま紅音に襲い掛かり、音を立てて噛み砕き、飲み込んだ。

その瞬間、一騎の中で、何かが弾けたのだった。










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