12 疎外感


遂に人類軍にここ、アルヴィスの位置を特定されてしまった。それは先日、一騎が人類軍を助けてしまったが為だ。

それに関して、父、史彦は余り追求せず、事の重大さにも関わらず、処罰を与えなかった。

それは、息子が人を助ける事に迷いを持たず、大人達の様に島の人間、それ以外の人間と区別せずに動いた事を親心ながら嬉しいと思ってしまったからかも知れない。

だが結果、マークゼクスを人類軍に引き渡す事になり、その途中2体のフェストゥムが現れ、マークゼクスに搭乗した羽佐間翔子はマークゼクス共々消えてしまった。

「私は、あなたの帰って来る場所を護っています」

出撃前の一騎に言った翔子の言葉だ。
彼女はその約束を、誓いを護って空へと羽ばたいていった。

そして更に、その後行われたアーカディアンプロジェクトで作られたと思われる島の調査にて、甲洋が半同化状態となってしまった。

未だにナマエが目覚める気配もなく、アルヴィスは重い空気を拭えずにいた。そんな時、一騎は総士に問い掛けた。

「俺たちとファフナー、どっちが大事なんだ」

と、総士は顔色を変えずに答えた。

「ファフナーだ」

一騎は総士の言葉に目を見開く。心のどこかでそうなのではないか、と思ってはいた。

でも信じたかった。そんな事ない、お前たちが大事に決まっている。

そんな答えを僅かながら期待していた。でも、はっきりと、総士の口から聞いてしまった。

「あなたは、そこにいますか」

遠い昔、総士の目を奪ってしまった神社に腰掛けて呟く。夏の音が聞こえて、日差しはジリジリと彼の肌を焼いていく。

「あなたは、そこにはいないわ」

いや、正確にはここにはいてはいけない。そう言って狩屋由紀子が現れる。先ほどの一騎と総士の会話を聞いていた、と。

「彼は外の世界を知っている」

そう、それは恐らく、未だ眠り続けているナマエも。

まただ、この疎外感。一緒に戦っているはずなのに、彼は遠い。そして彼女も、今は遠くへ行ってしまったままだ。

そんな世知辛い状況はずっと一騎の胸の中にあった。だが、見ない振りをしていた。

総士の言葉と一緒だ。聞いてしまえば気付いてしまえば、後には戻れない。

「あー今日学校サボったなー」

家への帰り道、真矢と鉢合わせる。
辺りはオレンジ色に染まり、一騎の心とは裏腹に眩しいくらいだ。

「うち、これからご飯何だけど、一騎くんは?」

「うちは、ないかな・・作る気しないんだ」

覇気もなく、空を見上げてそう呟くと、真矢は一騎を食事に招待した。

「ささ、食べて食べて」
「うん、」

千鶴、弓子、真矢と食卓を囲む。その温かさに、一騎は頬を緩めた。

「久しぶりだ、こうして食事をするのは」
「一騎くん・・」

ナマエがアルヴィスに行ってしまってから、どれ位が経ったのだろうか。

そんな何ヶ月も前の話ではないのに、もう何年も前の事の様に感じる。

それ程にナマエの存在は当たり前で、だからこそ隣にいない今がぽっかりと穴が空いてしまったかの様に虚しい。

「一騎のご飯は私好みよね!」
「ナマエ好みじゃないと文句言うだろ」

ニコニコと笑いながら言うナマエと、ため息を付きながら返す一騎。

昔の、なんでも無い会話がふと脳裏に浮かんだ。自分の作った食事を、ナマエはいつも喜んで食べた。

彼女が料理嫌いだから自然と一騎が家族3人の食事を作る。作っている間、手伝いこそしないが、彼女はいつも傍にいた。

料理の間だけじゃない。もう覚えてはいない、もっともっと前から。

「変わってしまうのが怖いんだ」

遠見家からの帰り道、途中から見える街の景色を2人で見ながら、一騎はそう呟いた。

「変わらない人なんていない」

真矢はそう、夕日を見つめたままの一騎に言う。変わるのが怖いと言いながらも、変ろうとしている彼に。

「なあ、遠見」

一騎はまだ夕日をみつめたままだ。その瞳には夕日が映っているはずなのに、真矢にはそうは思えなかった。

「俺たち・・俺とナマエは、本当の双子なのかな」

そんな日の後、一騎は島を後にする。

知らない何かを求めて。











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